一年でいちばん宙ぶらりんな日

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わたしにとっては紅白歌合戦と、ゆく年くる年と、カウントダウンパーティがない大晦日みたいなもの。それがクリスマスイブ。いいかえれば、プレゼントを開け、ごちそうが食べられる翌日の期待感が鼻先にふらさがっていて、買い物を終えた達成感と脱力感が覆いかぶさってくる日。イブに教会のミサにいき、正餐をいただく欧州大陸諸国と異なり、イギリスでは一年で一番のごちそうはクリスマスデーのランチタイムだからです。

クリスマスがテーマの映画は数多くありますが、クリスマスイブに限定するとこれしかないであろうディケンズのクリスマスキャロル。舞台は1800年代半ばのロンドン。クリスマスイブに冷血無比な守銭奴エベネーザ・スクルージのもとに三人の精霊(クリスマススピリット)が訪れ、自らの過去と現在と未来を垣間みた彼はクリスマスの朝に改悛する話です。

 

イブ限定の特別上映を観にでかけました。ブライアン・デズモンド・ハースト監督による1951年の作品。(題名はイギリスでは「スクルージ」、アメリカでは「クリスマスキャロル」(イギリスでは盛況であったのに、アメリカでは大きなシアターで上映される予定がキャンセルになり、ハロウィーンに上映されたという話で、英米の国民性の違いに思わず笑ってしまいました)スクルージは「顔立ちが哀しげで、声が気難しい悪魔みたい」と形容されたアリステア・シム。シャドー部分が圧倒的に多く、ハイライトがかなりとんでいる古典的白黒映画です。映画を観て食事にいくと聞いてのこのこついてきた子どもたちが、ポスターをみて絶句したくらいオールドなんです。半年前にUKトップチャートにのっていた曲は「懐かしい」で、レコードやタイプライターが「クール」で、コベントガーデンのUrban Outfittersのヴィンテージコーナーで何十ポンドの値札がついている本物の80年代製古着(チャリティショップだと5ポンドくらい?)がほしいというヒトたちですから。客の入りは悪く、おまけに40才未満はうちの子どもたちだけのようでしたが、クリスマスの朝にスクルージは自分の元で薄給で働いているクラチットへ七面鳥を贈るシーンで、まったく包装されていないおらず生の七面鳥を(そりゃあビクトリア時代にはビニール袋もサランラップもないでしょう)犬のようにだっこして大喜びの子どもたちの様子に、客席のあちこちからクスクスと笑い声が漏れ、微妙に盛り上がった空気が一瞬流れました。

DVDで観ればよいのにわざわざ映画館へ足を運ぶことの意味、シャドーとハイライトのコントラスト、ビクトリア時代の貨幣価値と貧困、七面鳥のサルモネラ菌、学校で学ぶ古典について、ビクトリア時代の街並とハリーポッターのダイアゴン横丁の共通性、スクルージを演じることは性格俳優のキャリアの頂点であるなど、観た後に会話がとぎれなかったのは、クリスマススピリットのせいでしょうか。

毎年クリスマスイブに焼いてしまうのがナイジェラ・ローソンのクレメンティンケーキ。クレメンティンは見た目は温州みかんなのに味はオレンジの冬の味覚ですが、以下のレシピがわたしのクリスマスイブについて多くを語っています。小麦粉もバター不使用で、シロップを浸したぐらいにしっとりウェットな不思議な食感とシトラスの芳香のバランスの妙がこのケーキのウリ。

ナイジェラ・ローソンの「HOW TO EAT」より引用
「クリスマスのレパートリーでもうひとつはずせないのが、クレメンティンケーキ。クリスマスにぴったりなのはいろいろ理由があります。まずクレメンティンは旬のものであるということ。それからこのレシピは2時間かかるわけですが、クリスマスの週は家にいて時間がかかるものを作ろうという気になるもの。とにかく驚くほど簡単で、ストレスにさらされていても、神経がまいって気絶しそうになるなんてことにはならないし、そのうえこのケーキは便利で応用範囲が広いんです。日持ちがして、実際何日かしてからのほうが美味しいし、サワークリームと一緒に食後のデザートとしていただいてもよいし、季節の挨拶に訪ねてくる親戚や知人に午前や午後のお茶といっしょに出してもOK。これ以上望むものなし。」

材料:クレメンティン 4−5個(375gくらい)/全卵 6個(Lサイズ)/ 砂糖 225g/アーモンドパウダー 250g/ベーキングパウダー 小さじ山盛り1

クレメンティンを丸のまま鍋へ入れ、十分にかぶるくらいの分量の水を入れ、沸騰したら弱火で2時間ほど茹でます。(お湯がなくならないように何度がチェックするだけで放ったらかしでOK)少し冷めたら半分に切りって種があれば種を取り除き、フォークで皮ごとマッシュします。

卵を割ってかき混ぜ(泡立てる必要はなし)、砂糖を加えてまぜ、粉類を加えたあとに、マッシュしたクレメンティンを入れてよく混ぜます。(フードプロセッサーを使う必要はなく、ただ「まぜる」だけ)

バターを塗った(わたしはオーブンペーパーを敷きます)21センチの丸型(横が外れるタイプ)に流し入れ、190℃のオーブンで約1時間焼きます。40分ぐらいしたらアルミホイルで上部をカバーして焦げ付きを防いでください。

日本にお住まいでクレメンティンが入手しにくい方は、普通のみかんとレモンで代用するとこれに近い味になると思います。ただレモンがシャープでビターなので、砂糖を250gに増量し、アイシングでトッピングする(オプショナル)などのアレンジが必要。

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