ミッドライフクライシスに効くクスリ?

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ミッドライフクライシスは日本語に訳されると中年の危機。チューネンという響きに手垢がつきすぎているうえに、「危機」からは絶体絶命的状況を連想するか、皮肉やジョークの臭いを嗅ぎとるかで、どちらにしても現実離れ感が否めません。

大人のふりをして生きてきた年数がある程度に至ったときに出くわす霧みたいなものだと思うのです。車を走らせているとき、霞で視界がわるくなってきたけれど、大丈夫だと思いながらアクセルを踏んでいると、急に深い霧に囲まれている自分に気づき、ブレーキを踏みフォグランプはどこだったけ、と慌ててダッシュボードに目を走らせるような感じ。霧には驚くほど濃淡があり、濃霧の中で取り残されてしまうこともあれば、ほんの数分ほどですっと消えてしまったり(実際いつもフォグランプがどこだか思い出せないアブないドライバーです)。ハンドルを切り損なって谷底へ墜落する人もいます。根底にあるのは、自分で思っているほどには若くない、やっていないことがまだある、でも可能性が限られていることからくる漠然とした焦燥感ではないでしょうか。

欧米男性のミッドライフクライシス的三大症状を挙げると、2シーターのスポーツカー、オートバイ、愛人(離婚に発展する場合も)。若さをマッチョなカタチで証明したいわけです。どれも経済的なゆとりがないと手に入れることが難儀なものであることに本人たちは半分だけ気づいているようです。若かった自分に対する現在の自分の優位性は経済力である(その分住宅ローンなど支出も多い)であるわけですから(あくまでも一般論です)。いっぽう出産という命を賭けたギャンブルをやるDNAをもった女たちは、打たれ強いものです。おまけに男と違って自分の内面を含めた広い話題のおしゃべりで、精神的凸凹をならす術ももっており、女性的ミッドライフクライシスはほとんど聞きません。しかし…

ある日曜日の午前中、わたしはだらだらとフェイスブックをチェックしていました。ふとお菓子作りが好きな知り合い(ウルトラマラソンをやるマッチョな男性)がアップしたマカロンの写真に目がとまったとき、アタシはまだコレを作ったことがない(!)というキョーレツなやり残し感に襲われました。つまり自分の人生の中のマカロンの形をした穴の存在に気づいたのです。これは晴れることのない濃霧でした。猛烈な勢いでレシピをググりました。そしたらでてくることでてくること、絞りがF2くらいで背景がぼけぼけの写真が載っているお洒落でフェミニンなブログの数々。ラズベリー、ピスタチオ、レモン、コーヒー、ラベンダーなどなど、色鮮やかな華やぎに満ちていました。背景には丸テーブルが並ぶカフェ、ハート模様のカップなど女心をくすぐる小物たち。カラフルで可愛いマカロンたちは、お洒落な靴と同じくらい、幸せな女であることを証明する武器、アイデンティティのXX的増強剤であることに、そのときは気づいていませんでした。濃霧の中にいて視界ゼロでしたから。

そのときに発見したレシピがこれ。手とリ足とり細かく段階を追って説明してあります。ピエについて(マカロンの横壁にある細いひび割れのような線)の知識とか、絞り出したものを渇かす時間を季節と天気によって変える必要があることなど、マカロン作りは単なるお菓子作りのレベルを超すものでした。かなりの段取りと集中力を要するため、家族たちはキッチンから閉め出され、昼ご飯も食べられず、お茶すら飲めず、悲惨な日曜日を送る羽目になりましたが、一時期おもちゃみたいなコンバーティブルを保有していた配偶者氏は、これってもしかして女性バーションのアレかも、と察したようでした。小さいくせに手間と時間がかかり、壊れやすいためパッケージにもお金がかかるため高価であることも身をもって学びました。そして、「買ってきたマカロンの写真をフェイスブックにアップしただろう」(上の写真/ホントにこんな出来上がりだったんです)という最高の賛辞である揶揄とともに、私の人生に存在したマカロン形の穴は優しい味の砂糖菓子で埋められ、心理的エストロゲンが増強されたのです。

それからもうひとつ。女たちはフランスのものに弱いんです。マカロンにはお洒落なパリの香りがします。このお菓子がラトビア共和国(もとロシアだった国々は何処だかわからん)とかチュニジアの名物(アフリカは心理的に最も遠い大陸である)であったらこれほど愛されることはなかったでしょうに。

追伸
深刻なミッドライフクライシスにを抱えていて、検索してここへやってきた方へ。
即効薬はないと思うんです。過去を振り返って、やらなかったり、やるべきでなかったことを考えるのは何のプラスにもなりません。同様に未来の心配をしても仕方ないです。現在なにをやるか、っていうことにフォーカスするしかないんじゃないでしょうかねぇ。これは20才でも80才でも同じことですが。

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