南極から絵葉書を送ってきた男

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10年近く音信不通だった友人から絵葉書が届いた。細かい字でぎっちり詰める書き方が全く昔とかわっていない。字が笑っているようにみえる特徴のある筆跡も。薄紫に暮れなずむ街の夕景。ウシュアイアという街の名が記されていた。あわててググるとアルゼンチン。

切手にはエリザベス女王在位を示すロイヤルメイル(英国の国有郵便事業)の紋章がついており、BRITISH ANTARCTIC TERRITORYと印刷されている。消印はポートロックロイ。これは南極だと気づくまでしばらくかかった。

世界最後の秘境にも物資は届けられるのだし、ツーリズムも存在するのだから郵便局くらいあるだろう。最近仕事がらみでアフガニスタンの軍用キャンプに小包を送ったばかりである。BFPO (英国軍関係者用郵便局)宛に送ればよろしいだけだったのだが、オペレーションなんとかという戦争ゲームに出てくる言葉と長い識別番号が宛先についていた。郵便物が届かないところってアル・カーイダぐらいか?調べてみたら、南極のポートロックロイ基地は郵便局、博物館と土産物屋も兼ねていることが判明。

250ccのオートバイでオーストラリア大陸を8の字型に2回周遊して、北米からアルゼンチン最南端のフエゴ島まで行き(そういえばそのときもウシュアイアから葉書をもらったのを思い出した)、ヨーロッパもバイクで旅した野宿が当たり前の屈強な男なら南極ツアーもありだろう。最後に手紙をもらったときには南米の農場で働いていたし。ヒマラヤで一緒にトレッキングした仲間であり、性別を越えた体育会系の(わたしは万年文学少女ではあるのですが)友情はありがたい。南米のどこかのネットカフェでこのブログを読むかもしれない本人のために懐かしいネパールの写真をここに。
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その切れそうで切れない絆をつなぐのは、物理的に紙切れをせっせと運ぶ郵便事業である。そしたら、年賀状やクリスマスカードという型通りの季節の挨拶を別として、自分が最後に手紙を出したのはいつかと考えた。わからないのである。息子がサッカーの練習で足首を痛めたので明日の体育は見学します、なんていう連絡事項じゃなくて、人と繋がるために書いたもの。本当に思い出せない。

旅行にでてもデジカメや携帯で撮った写真をメールに添付して送るわけだから、絵葉書なんて世の中から無くなる日がくるのだろうか。様々なSNSやemailで人との繋がりは太く濃くなっている気はするのだが、リンクが切れたりユーザーネームが変わったらNot Found 404というエラーメッセージとともに断ち切れてしまう。ちゃかちゃかキーボードを叩いてエンターするメッセージと手書きの葉書は量やスピードだけではなくて比重が違う。だからといって手紙が絶対よいというわけではなく、ただ、人との繋がり、というコンセプトがなんだか頭から離れないのである。

でもここで、『旅行』と『旅』は別物であることに気づいた。旅行には毎年いくが、旅をしたのはずいぶん遠い昔のことである。旅をしたことがある、と言い切れるのは僥倖かもしれない。3ヶ月経っても旅行のままの人もいるだろうし、半日の旅だって有りうるから尺度は時間ではない。旅人は現在でも絵葉書を書くのだろうか。Facebookに写真とか地図とかマメにアップしている間は、それはまだ旅行で旅ではないのかもしれない。

彼なら旅の定義を知っているにちがいない。少なくとも旅がらみの蘊蓄話を20キロ分(それ以上だとエコノミークラスで飛べない!)は溜めこんでいるだろう。絵葉書は南極からイギリスまでひと月で届いたわけだが、そのひと月が早いのか遅いのかも判断つきかねる。笑う字を書く男のメールアドレスにメールを送ったのだが、インボックスに彼の名前は現れない。南極からの葉書を手にした女が世界中にいるのかもしれない。

ここでもうひとつ送られてきた絵葉書を。
ハンブルグのレストランのデザートメニューが印刷されたもの。癖のある字で読みづらいかもしれないので、いちおうメッセージをの訳を以下に。

キミならどれを選ぶ?僕はどれにしたと思う?

普通ならこんなものを食べたよという写メを送ってくる男がよこしたもの。
何を食べたか見当はついているけれど。

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8 コメント

  1. こんばんは
    私も普段メールも電話もする相手に
    気まぐれに手紙を書いてみたり、絵はがきを送ったり
    私は字はうまくは無いですが、やっぱり直筆のメッセージは
    もらって嬉しいです。何度も読んでしまいます。
    南極から!!?南極にポストが…うーん想像出来ませんが…。
    バイクの旅は憧れです^^
    北海道一周でもいいから、いつかしてみたいものです。

    何を注文されたんでしょうかね^^

    • 手紙を書いたり絵葉書を送ったり、、、うむ、わたしが無精者なのか。でもフォレさんって、マメそうですよね。北海道一周、いつか実現させてください!北海道には行ったことないのですが、イギリスの湖水地方に行った人は北海道みたいだといいます。

  2. 初めまして、フォレさんについてきました森のくまです。
    森のくまなどと名乗りながら、爺さんでございます。
    イギリス大好きで、High Wycombeという小さな町に色んな思い出があります。

    それはさておき、PORT LOCKROY消印の絵葉書が届くなんて、
    なんだか小説の始まりみたいで素敵ですね~。
    デザートメニューの絵葉書も洒落てるなあ、なんとも粋です。
    「Facebookに写真とか地図とか……」のくだり、まったくもって同感です。

    ほんと素敵なブログですね、
    コーヒーを飲みながらゆっくり読ませて頂きたいと思います。
    ちょこちょこお邪魔しちゃうかと思いますが、よろしくお願い致します。

    • 森のくまさん、温かいコメントどうもありがとうございます。
      High Wycombeはロータリーが幾つもつながっていて、恐ろしく急坂のアップダウンで初心者ドライバー泣かせの街ですよね。何度か行ったことがあります。初心者ドライバーだったときに!いつごろいらっしゃったのですか。イギリスもかなり変わりました。どの街もスタバみたいなカフェだらけになりました。
      くまさんのブログもゆっくり拝見させていただきますが、いま午前3時なのでもう休みます。ではまた!

  3. 南極からハガキが来るって凄いですね。
    私の世界では考えられないことですぅ。
    イギリスと言えば、ラウンドアバウトが私苦手で、あれに出くわす度に後ろから鳴らされ、強引に入ると横から鳴らされて参った事があります。

    • かつさん

      ええ、わたしも驚きました。たまたま人と違った人生を歩んでいる友だちが板だけのことですが、一期一会がいろんなものに結びつきますよね。
      こちらで運転されたのですね。わたしはイギリスで免許を取ったので、逆に日本はこわくて運転できません。スピードがおそすぎるのと、道を譲りあう精神がないのとで。

  4. まだ(2)読んでないんですけど、sunnysiderさんの話はちゃんと順を追わないと勿体ない!って思って、(2)から探してやってきました。(爆)
    もううっとりするくらいステキすぎるお話!
    今から(2)を読みますね~(((o(^。^”)o)))ワクワク

    • まぁ、律儀に1から読んでくださっているのですね。こんな拙文のリンクをたどってきてくださって恐縮です。さすがきっちりmitoさん。A型ですか?いやぁ、うっとりするような話じゃないです。でも地球は狭くなってはいますが、やっぱりまだまだ南極は遠いですよね

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