水くさい噺

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好きとか嫌いとかいっていては、やっていけないものがある。

家族、とくに配偶者や子どもの性格、隣人、職場の人間、子どもの友だち、担任の先生、交通機関、持ち家のロケーション、自分の顔と髪質。それから忘れてはならないのが天候。曇天と雨天がおそらく空模様の8割を占めるであろうイギリスでは特にそう。そこから逃げるわけにはいかないものに対して、ネガティブな感情を抱いてもなんの得にもならない。ちなみに家族に関しては、なんのかんのあっても根底に在るのは好き嫌いを超えたもの(これを愛とよぶらしい)だと思うので、この仲間に入る。そうはいいつつも、ついつい「ったく、もう」とか「やってらんねぇよ」という気持ちになってしまうものがある。それが水。
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一般的にいってロンドンを含むイギリス南東部の水道水は硬水(ハードウォーター)である。カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分の含有量が高いため、台所や風呂場などの水回りをはじめ、洗濯機や皿洗い機にも、ライムスケールとよばれる白灰色をした歯石のようなガチガチがこびりつく。ガラス製品は洗ったままにしておくと、うっすらと白い水滴模様が残るし、シンクもまめに拭かないと白いまだら模様に覆われる。ケトルも底や横壁がガビガビと化し、溶けた石灰質がうっすらお湯に浮くようになり、定期的に水垢取り専用の強力な溶剤または重曹でこれをやっつける仕事が家事の一部として存在する。

WP_000039-2 (1)紅茶ドリンカーの国民に酷使されている職場のキッチンにもケトルはあり、当然のことながらライムケールがちんこ状態。複数の人間がいる環境で仕事というのはできる人、もしくは、なされないことに我慢できない人にに回ってくるように出来ている。(自分が仕事ができる人間だとはいっておりまっせんので念のため)わたしは実家の井戸水をごくごく飲んで育った軟水人間。石灰質がうっすら浮いている紅茶が飲める人間に対して、敗北したような勝っているような気持ちがいり交ざりながら、会社のケトルをお持ち帰りしてライムスケールを除去してしまうのである。

元来コンペティティブではない自分がケトルひとつに、なんで勝ちとか負けという概念を意識するのかとぼやいていたら、はたと気づいた。飲みかけの紅茶が入ったマグカップを幾つも放置している人間のデスクをみては深いため息をつく同僚のP氏が、シンクを拭いていたりするし、ゴミ袋を黙って捨てにいくM君もいるし、お菓子をみんなに愛嬌よく振りまくJ君もいる。持ちつ持たれつ。何処かで借りをつくったら、別のところで返していくことで世の中は回っているのではないだろうか。もし自分はいつも損な役回りだと思っている人は気づいてほしい。どこかで別のところで恩恵を受けていることもあるのだが、それに気づいていないということに。

そういえば、2年かけて世界一周した相方も、昔はヒッチハイカーを道端でよく拾っていた。自分は旅行中、南半球でかなり人の車に乗せてもらったので、そのお返しだといって。でも、高速道路(Motorway)や幹線道路(A road)の進入路で行き先を書いた紙を掲げるヒッチハイカーを見かける機会がほとんどなくなってしまった。赤の他人を乗せれば、ナイフを突きつけられたり、ドラックをやられてもおかしくないし、乗せられる方だって身の危険を感じるようになってしまったということなのだろうか。世知辛いご時世だよなぁ。

熱々オーブンにパウンドケーキを一本だけ入れて焼くのはもったいので、2本一度に焼くことにしている。一本は家で食べ、もう一本は冷凍保存もできるけれど、誰かにおすそ分けしちゃいましょう。

市場にいくと、「A pound a bag(一袋1ポンド)」という威勢のよい売り声でビニール袋一杯の完熟バナナが売っている。それを買って焼くのがこのケーキ。バナナケーキといえばプレーンで粉っぽいレシピが多いけれど、これはしっとりモイストで素朴ながらも上質な大人のおやつ。ミルクティーにもコーヒーにもよく合う。ナイジェラ・ローソンのHow to be a Domestic Goddessより。
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材料:干しぶどう(saltanas) 100g/ バーボンまたはラム酒 75ml/薄力粉 175g/ベーキングパウダー 小さじ2/重曹 小さじ半分/塩 小さじ半分/無塩バター 125g/砂糖 150g/卵Lサイズ 2個/熟れたバナナ 約300g(皮を除いた重量)小4本程度/60g クルミ/バニラエクストラクト 小さじ1

1)干しぶどうとラム酒を小鍋に入れて火にかけ沸騰したらそのまま1時間程度おいてふやかし、余分な水分は捨てる
2)粉類(薄力粉、ベーキングパウダー、重曹、塩)をボールに入れ混ぜ合わせる
3)溶かしバターと砂糖を大きめのボールにいれてよく混ぜ、卵を1つづつ割り入れ、フォークでマッシュしたバナナを加える
4)刻んだクルミ、ふやかした干しぶどう、バニラエクストラクトを加える
5)粉類を3分の1ずつ加えてさっくり混ぜる
6)パウンドケーキ型に入れ、170℃で1時間から1時間15分程度、竹串を刺しても何もつかなくなるまで焼く。
(写真はクルミを切らしていたので、余っていた板チョコ3切れを入れたもの)

5 コメント

  1. こんにちは。
    それにしても写真がいつも素敵ですね~、うっとりしちゃいます。
    ポットカバーが可愛い!正ちゃん帽だ!そして軟水と硬水の違いを
    いまいちハッキリと感じられない鈍感野郎でございます。
    それにしてもライムスケール(今回初めて知った言葉ですが)が、
    そんなにこびりつくなんて、結構びっくりです。そういえば、紅茶は
    軟水のほうがよい、なんてことを聞いたような気がします。そして紅茶に合うといったら
    パウンドケーキですね、大好きです。あのしっとりとした感じが好きです。

    そうそう、『終わりの感覚』読みました!お気に入りの作家がひとり増えました。
    ウィットに富んだテンポのいい文章で「こりゃ面白い!」てな感じで読み始め、
    気づくとじわじわと背筋がひんやりとし始め、物語の深みにハマっていきました。
    さりげなくも緻密な計算の上に張られた伏線が繋がっていく快感、
    そして最後の見事なワンフレーズ、本を閉じてしばらくぼんやりしてしまいました。

    最近、年齢のせいか同窓会的な飲みの機会が多く、そんなときに30年前ぐらいの
    話題になったりして、それぞれの思い出が「あれ?そうだったっけ?」てな感じで、
    微妙にズレるのを感じたり。記憶は曖昧に美化されますね、自分の都合のいいように。
    この物語は他人事とは思えないほど、心に刺さりました。と同時にジュリアン・バーンの
    文章の巧みさを堪能することが出来ました。素敵な作家をご紹介頂き、ありがとうございます!

    長々とコメント書いちゃって、すみません。こういう出逢いが嬉しくて。

  2. 森のくまさん

    なんだかしみじみしてしまうコメントをありがとうございました。
    わたしがご紹介した本を地球の反対側の人が読んでみようと気になって、いい読書体験になり、何かしらその人の心の糧になった、というお話は本当に嬉しいです。出逢いという言葉の通り、ネットを通して人と繋がりをもてるのは実に素敵なことですよね。

    『ウィットに富んだテンポのいい文章で「こりゃ面白い!」てな感じで読み始め、
気づくとじわじわと背筋がひんやりとし始め、物語の深みにハマっていきました。
さりげなくも緻密な計算の上に張られた伏線が繋がっていく快感、
そして最後の見事なワンフレーズ、本を閉じてしばらくぼんやりしてしまいました。』
    これはホントにわたしが感じた通りです!こういう本が好みのわたしにおすすめ本ありませんか?最近日本語の美しさに気づいて(遅すぎ?)川端康成や三島由紀夫を読み直しています。

  3. おじゃまします♪

    はじめましてのご挨拶を♪ ⇒_(_^_)_
    英国の好きなもん多いんで、そっちでの生活憧れますわ♪ ・。・b
    愛車はミニやし(旧英国時&新独製) 
    紅茶専門店修行してましたし♪
    ロイヤルミルクティなど無いのんも知ってますよん ^p^b
    ポットカヴァーがキュートですね p。-
    これでニット帽の再利用方法決定 ・。・b ^p^
    〝ライムスケール〟初めて知りました ・。・
    硬水、そんな難儀なことが起こるんですね -。-;
    パウンドケーキ、おいしそう >。</
    トースターでときどきママゴトしてますねん ^p^
    オーブンを買おうと思ったのでした ・。・b

  4. taketsuruさん
    コメントありがとうございます。紅茶専門店での修行がいまの珈琲道楽のもとなんですね。カリタのミルと赤のポット、いいなぁーと思いながらみせてもらっています。
    どの車種もそうですがミニもでかくなりましたね。うんうん、ミニを運転する人っていうイメージにかさなります:ー)
    ハードウォーターは、シャンプーは泡立たないし、洗濯石けんは余計にいるし、よいことはありません。経済効果は莫大にマイナスです。珈琲も軟水の方が美味しいはず。うちはGaggiaのエスプレッソマシン党ですが、美味しいフィルターコーヒー飲みたいです。

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