林檎と郷愁

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130408888_4a64cfe820_oりんごのレシピを検索すると星の数ほどヒットするけれど、女の名がついたものが結構目につく。誰それのアップルケーキとかなんとか伯母さんのアップルパイという具合に。

りんごはとても身近な果物で、たくさん穫れたから、おすそ分けでもらったから、安売りだったから、買い置きがちょっと古くなってきたからなどというよくある理由で実に多くの人々が使い道を探してきた。「ゴージャスでリッチな」ガトーショコラはあっても、同じ形容がされるりんごケーキなんてほとんどない。りんごのお菓子の原点は郷愁である。それが異国からやってきたレシピであってもどこか温かくて懐かしい。ありふれた果物の親近感は家庭の匂いとか、家族の団欒、友だちや知り合いとのおしゃべりにつながっている。

レシピを代々伝えてきたのは女のおしゃべり。古くは農作業をしながら、洗濯をしながら、文字通り井戸端で、教会のバザーとか品評会で、それからお茶を飲みながら、「これ美味しい、レシピ教えて」の台詞が、世代や時代を超えてレシピを伝えてきた。途中でアレンジが加わり名前が変わったりする過程を経ながら。どこかのティールームで横のテーブルに座る中年女性ふたり組のこういう会話をもれ聞いたときには笑ってしまった。「今度レシピ教えてあげるわよ。ヴィクトリア時代のフルーツケーキなのよ。フードプロセッサーを使った」ヴィクトリア女王の存命中にはフードプロセッサーがないのはいうまでもない。

IMG_4223 (1)女という言葉を連発したのでジェンダーステレオタイプな響きがあるだろうが、これは歴史的観点からみたお話。レシピの伝達は台所番であった女たちによるローカルなネットワークの賜物だった。そう、だった。過去形。
ゲイパートナーシップも男がケーキを焼くのも普通の時代である。インターネットを通してジェンダーとボーダーを越えてレシピという情報が伝わっていく。女のおしゃべりは変わらないけれど。

ジュリーのフレンチアップルケーキに出会ったのは14年前で、これも「これ美味しい、レシピ教えて」のクチである。このレシピをくれたのはケイトという女性で、わたし的にはケイトのアップルケーキであるけれど、アナベル・カーメルのQuick Children’s Mealsという本(絶版)に載っている。アナベルとジュリーの関係、ならびにジュリーがフランス人かどうかは明らかではない。これまで人にはりんごとココナッツのケーキとしてレシピをあげてきたけれど、今回はどこの誰だかわからないジュリーに敬意を表することにしよう。とにかく14年間焼き続けているのは、1)りんごをあらかじめ煮たりする下ごしらえがいらない 2)まぜるだけのワンボールレシピ 3)そのまま食して午後のお茶にも、クリームやアイスと一緒にデザートにもなる 4)ココナッツ入りの生地なのでほろほろとした優しい食感であること。そしてやっぱりどこか懐かしい味がするからである。

写真はちょっと焦げてしまったもの。オーブンにケーキをほりこんでジョギングに出かけたら、時間通りに帰って来れなかったため。

ジュリーのフレンチアップルケーキ (Julie’s French Apple Cake)  23cm円型

材料:小ぶりのりんご 5個/レモン1個(なくても可)/室温にもどしたバター 200g/砂糖 225g /小麦粉 200g/ ベーキングパウダー 小さじ1 /ココナッツ 100g/卵 4個

1)りんごの皮と芯をとって半分に切り、レモン汁をかける(レモンがなけば省略)
2)バターと砂糖を白っぽくクリーミーになるまでまぜ、卵を1つづつ加える
3)合わせてふるっておいた小麦粉とベーキングパウター、それからココナツ70gをさっくりとまぜる
4)ベーキングパーチメントを敷いてバターを塗っておいた型に生地を入れる (この時点で型の半分にしかならず不安になる量ですが大丈夫)
5)りんごの表面に切り目をいれてから、型の生地に埋めこみ、のこりのココナッツをふりかける
6)170℃で約50分焼いて出来上がり

16 コメント

  1. こんばんは^^
    下の果樹園記事から拝見しました
    林檎つながりですね!
    口伝えでレシピがずっと受け継がれてる
    もしくは広がり、アレンジされ…
    そんな事を考えただけで楽しくなりました^^
    私は、林檎は生で食べるものって思っていましたが
    そんなにお料理(お菓子)のレシピがたくさん有るんですか!?
    紹介されて居るケイトさんのアップルケーキはシンプルな
    作り方で…一見簡単そうですが…自信無いですね(汗
    私、オーブンの使い方がイマイチ下手で><。
    オーブンレンジなんて使ってるからダメなんでしょうか…

    焼き上がり!!とても美味しそうです
    是非、カットされた所を見てみたかったですね~
    ココナッツ好きです^^

  2. フォレさん

    スーパーで年がら年中同じお野菜とか果物に囲まれているとつい季節のことを忘れちゃいますけど、農産物って穫れるときは一度にどんっと穫れるんですよね。だからジャムとかつくって保存しちゃうし、りんごも生でばっかりそんなに沢山食べれませんからねー。料理用にしか使えない酸っぱーい林檎もあって、こっちでは普通アップルパイはその系統の林檎で作るものが多いんですよ。

    オーブンは基本的に温度さえしっかりしてればなんでもオッケーじゃないんでしょうかねぇ。うーん、バイクでつっぱしるフォレさんがお菓子焼いてる姿も可愛いかも?!

  3. 今夜、ジュリーのフレンチ・アップルケーキ作りに挑戦しちゃいました。こちら、南半球の真夏の季節ですので、りんごは端境期でサクサクの旨みには欠けることは分かっていましたが、ブログにある出来上がった、ホクホクの写真の誘惑に負けました。今、オブンの中です。実はレシピで卵の個数が書いてなくて、中途であわてちゃいましたが、Lサイズを3個にしました。これでいいのかしら。出来上がりで判明しますね。真夜中のお茶とケーキになりそうです。お茶は、タイで買ったベンジャロン焼のカップの初おろしにしよっと。毎日の生活にうるおいをもたらしてくださってどうもありがとう。

    • 釉子さん

      お越しいただいてありがとうございます。卵はうっかりしていました!すみません!Mが4個なのでL3個で大丈夫だったはずですが、いがかだったでしょう。ベンジャロン焼きは精巧な模様使いが釉子さんの緻密な頭脳とお洒落なイメージにしっくりきます。思い立ったらやってみて真夜中。そういう生き方を続けていらっしゃるのですね。やっぱりクールな方のままだ。

      • ジュリーのフレンチ・アップルケーキは真夜中でなく、今朝のモーニングティーに頬ばりました。作りやすさ、サックリの軽やかな口ざわり、りんごと砂糖が混ざった甘酸っぱい味の好条件が3拍子そろった、嬉しいケーキの発見でした。SUNNYSIDERさんがこれを選ばれたセンスにお礼を申します。こちらで林檎が旬になる季節(秋)になったら再び作ります。こちらでは、秋はもうすぐですものね。Glossaryも興味深く読ましていただいています。

  4. 最近ちょいと甘いものが食べたくなると、アップルパイを食べちゃう爺さんです。そういえばアップルパイはよく食べるけど、りんごのケーキって食べたことないかも。

    それにしても、フードプロセッサーの下りが笑える!レシピには疎いんだけれど(どちらかとういと作るより食べるだからなあ)、レシピを読みながら写真を眺めていると、なんだか「次は女で産まれてこよう」などと思う今日この頃です。

    レシピといえばつい最近ケーブルで『JULIE & JULIA』という映画を観ました、美味しそうなものがたくさん出てきて、お腹が空く映画でした~。

    そうそう、中勘助の『銀の匙』とともに『蜜蜂・余生』もお薦めです。あとベタですが向田邦子の『思い出トランプ』とか梶井基次郎の『檸檬』とかも、美しい日本語だなあ、などと感じます。最近の作家では木内昇(のぼり)の『漂砂のうたう』がとてもよかったです。恥ずかしながら「漂砂」という単語を、この小説を読んで初めて知りました。

    • 森のくまさん

      ケーキを焼くのに女である必要はないので、生まれ変わらなくても男のままで料理でもお菓子でもチャレンジしてください!でも女のおしゃべりには参加できないですよね。だいたい大人の女性はけっこうな長電話の最長記録をもっているものです。男がびっくりするような時間数の。

      『JULIE & JULIA』は観ました。毎日レシピを挑戦するのは大変なことです。あの本物のJulieさん夫婦素敵でしたが、本がベストセラーになったあと離婚しちゃったんですよね。残念だけど。

      本のおすすめありがとうございます。漂砂はわたしも知りませんでした!直木賞で名前だけは聞いていましたが、アマゾンで中をみてみたらそのまま先が読みたくなりました。「檸檬」は何年かに一度読み返しています。一度にばんっとオーダーしますので、まだまだおすすめよろしく。

  5. 小5のとき、本の中にでてきた「焼きリンゴ」に興味を持って
    先生に尋ねたら、日曜日に学校でいっしょに作りながら教えてもらいました。
    アメリカ映画を見るとよくアップルパイが出てくるので、いつかアメリカの家庭で手作りのアップルパイを食べるのも小学生からの夢でした。この夢は大人になってNYの友だちの家で突然叶いました。
    ピンク色のリンゴジャムをはじめてつくったときもうれしかったし・・・いつかじぶんでアップルパイを焼くのも幼い頃からの夢。リンゴって何もしないで食べるのは苦手だけど、火を通したものは大好きです。ジュリーのフレンチアップルケーキも、いつか焼いてみたいです。

    • asoboさん
      日曜日に焼きリンゴなんてほんとうにいい先生ですね。そういえばアップルパイをはじめとするりんごのお菓子は映画によく登場しますね。よくある身近な食べ物だからでしょうね。パイもケーキもリキを入れなくても大丈夫な簡単レシピはたくさんありますからぜひトライしてみてください。だいたい欧米の主婦たちは日本のお母さんたちよりずっとずぼらです。そういう彼女たち(ははは、わたしもそうです!)が焼いているのだから大丈夫なはずですよーーー。

    • リンゴのオムレツとは新鮮な。どのようなものですか?興味津々。ぜひ詳しく教えてください!
      で、「昔つき合ってた娘」っていっぱいいるんじゃないですかぁ(笑)

      • sunnysiderさん、いえいえ、いっぱいはいませんよ~(汗)
        林檎のオムレツですが、少し甘く煮たか、蒸したものを卵でくるんで食べましたよ。でも少し記憶があいまいですね。なにせ、20年以上も前のことなので、、

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