読書のための椅子

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村上春樹さんには自宅のどこかに、かっぽりと隠れたように身をおける読書の場所が確保してあるそうで、その場所に置く椅子選びにいかに心をくだくかが書いてあるのを読んだことがある

このブログにコメントをくださる釉子さんからそういう話をうかがった。

「レキシントンの幽霊」にでてくるジャズレコードコレクターの書斎のイメージもするし、「ねじまき鳥クロニクル」の首つり屋敷みたいなものかもしれない。想像をかきたてられてしまう。自分のうちにもそんな場所と椅子があればよいのだが、狭い家に余分な空間はない。また兼業主婦には家でやることがありすぎるので、読書やブログは料理も掃除もすべきでない深夜の作業である。安らぎを家の外に求めてしまうわたしと縁のある三つの椅子のお話。

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図書館の窓際の椅子。財政難のパブリックサービスらしい安普請なコーナーである。南向きの窓だからこれがサンフランシスコとかバルセロナだと眩しくて本なんか読めない配置だろうけれど、曇天ばかりのイギリスでは適度に明るくてよろしい。また外は大通りでバス停のすぐ近くなので人が大勢通り過ぎる。ガラス窓一枚分の隔絶感が妙にいい感じである。雨の日は特に。図書館というのは浮世離れした場所だからこそ現実の世界から遮断されすぎない微妙さ、といえば通じるだろうか。

でも、ここにはある種の貧乏くささが漂っている。中途半端な規模の街の図書館には金持ちは来ない。金欠の学生か他に行き場のない人々が多い。財源が限られた公共機関だから信じられないくらい旧式のコンピューターを使っている。本の予約に50ペンスをチャージするせこさ。おまけにプログラミングを中国かインドに外注したのだろう、オンラインだと50セント請求された。通貨が違うのをチェックしていないところがまた人件費をけちっている証拠か職員の怠慢か。

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こちらは人がお金を落としにくる場所。大手ブックチェーンWaterstonesの座り読みコーナー。1707年に建てられた教会を改装して営業している。2階部分が回廊式の本屋としてはロンドンのMarylebone High StreetにあるDaunt Booksが有名で、実に趣のある店ではあるけれど長居はしにくい。スケールでいうとこっちが上で、手すりのカーブもエレガント。おまけにゆっくりできる。階段の横に左右対象に置かれたに背の高い黒い本棚の横に、1脚づつ置かれている。広い空間が目の前に広がっているくせにぽつんとおかれた椅子にはまり込むと隠れ家的でなんとも心地よい空間なのだ。携帯で撮ったので手ぶれのうえ画質がわるいのはご勘弁のほどを。カフェも併設されていたらずっとこの本屋の片隅で本を読み続けたいたいのだけれど。

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残念ながら、本屋はレファレンスライブラリーみたいな使い方をしていて、気に入った本があったら図書館で借りる、図書館になければKindle, Kindleでなければアマゾンで買う。そんなことをしていてはHMVみたいにつぶれてしまうではないかと、本日は座り読みの後、定価で購入。

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これはキッチンに置いているダイニングチェアのひとつ。背がまっすぐで座り心地は悪いし、鉄製なので十キロあり、まったくもって非実用的な代物。テーブルがあるためメモを取りながら読むのに使っている。1年ちょっと前これが倒れて裸足だったわたしの足を直撃し、小指の骨を折った。それも日本行きの3日前に。松葉杖にクロックスのサンダル履き(足を怪我した人にはおすすめ)で行くには行ったものの歩き回れなかったため、旧い友人と彼の素敵な同居人ともう一人の旧友といういい男3人相手に10時間しゃべりっぱなしという偉業(女子トークなら容易だけど)を達成する遠因となった椅子。今住んでいる国がばらばらなのであの機会を逃していたら一緒に会える機会は当分なかった。朝の6時に(BA羽田便は早朝着)家に招きいれてくださったYさんには感謝している。

椅子とは腰かけるための道具である。当然ながらデザインと材質で値段が決まる。でもその価値を左右するのはそれが使う人にどんな時間を与えるかだ。使う人がどんな時間を引き出すかっていう言い方もできる。モノってみんなそういう風にできているよなぁ。

17 コメント

  1. あら、嬉しい。次の新規エッセイのきっかけに、私のコメントを採用してくださったのですね。

    「書いたメールは一晩熟成させてから投函する」 これも、どこかで読んだ村上春樹さんの助言です。先のエッセイ「ロックと宗教とサイエンスのアフタヌーン」へのコメント、熟成させずに投函したので、見事に失敗しました。それで、このコメントの投函はのちほど。悪しからず。

    今、そちらは土曜日の午後1時くらい? 草木も寝静まった深夜でなく。どんな週末の午後なのでしょうね。

    • 釉子さん
      どうってことないブログのコメントですから、熟成なんかしなくって、つきたてのお餅的で十分です!珍しく天気のよい週末でしたよ。

  2. こんにちは!先日はコメントを残してくださって、どうもありがとうございました。嬉しかったです☆
    sunnysiderさんは文章を書くお仕事をされているのですか?噛み砕かれた(?)力強い文章なので、そんな印象を受けました。でなければ、それこそたっっくさん本を読まれているのでしょうね。
    村上春樹の作品は昔から大好きで、全部読みました♪彼の文章のリズムと視点、変な世界が好きです。それから、椅子も大好きです。椅子には四本足があり、そのせいか、生きものに見えたり、スタイルやデザインはその生きものの立ち姿に見えたり。実用性がなくて足の骨をアタックしてしまう椅子だけど、デザインはとても素敵ですね♪ 職人さんのこだわりが見られます。

    これからじっくりと過去記事を楽しませていただきまーす!

    • paparicaさん
      のぞいてくださってありがとうございます。
      会社では一日中Eメールを打ってるようなものですけど日本語関係ないし、たまにやってる翻訳バイトはカタログとかウェブサイトだからちょっとちがいます。力強い(かな?)のは、言いたいこと、つまりウップンが溜まっている(!)からだと思います(苦笑)
      このブログは、はじめたばかりのヒヨッコですけど、すでに何のために書いてるのか、の壁につきあっています。これってブロガーの永遠の命題なんでしょうけど。
      paparicaさんは伸び伸び書いてらっしゃいますよね。読んでて気持ちいいです:-)
      村上春樹、次がでるのはいつかなー。読んでて楽しいし、いろんなことを考えちゃうし、解釈のしかたがいろいろあるし、ハードカバーを買っても十分もとがとれるところでは、すっごく変な言い方だけどvalue for moneyの作家さんですよね。
      よかったらまた遊びにいらしてくださいねー。

  3. 一晩寝かせました。それでは….

    読書のための椅子のお話ですね。そして椅子の置かれる空間も。
    狭さでは我が家も人後に落ちませんが、その空間というのが我が家に見つかったのですね。
    ある日の午後、本を探していて、あれも、これもと、本棚から抜き出した数冊を膝に置き、タマタマそこに置いてあった椅子に腰を下ろした時の発見でした。本棚と本棚の間にできた空間。そこに身を置くと、背後から棕櫚の葉っぱを通して陽光が射しこみ、暗すぎず、明るすぎず、吸い込まれるように読書に集中できたのでした。

    私にとっては、その場所は、海辺とか公園などの眼前に空間の広がるところよりも、窪み、穴倉のような狭まるスポットが好みです。まずは空間みつけ。それさえ見つかれば、そこに合う椅子の大きさと形は自ずから決まりです。でも、実をいいますと、空間を見つけただけで椅子は、まだ見つけていないのです。大きすぎない、軽くあづけられる腕置きのついた、布地のカバーの椅子が合いますね。多分。
    Sunnysiderさんがおっしゃるように、この2つの装備が私にどんな時間をくれるのか、あるいは、引き出せるのか… です。
    一晩寝かせたコメント。気取ってら~

    • 背後から棕櫚の葉っぱを通して陽光が射しこみ、暗すぎず、明るすぎず….シドニーの明るい陽光とフレッシュな緑をヴィジュアライズしました。ほんと、いい感じですねー。穴蔵のような狭まるスポットにも共感します。旧家の蔵みたいなところが書斎だったらいいなと思うんですけど。これから椅子選びが楽しみですね。そのスポットにしっくりくるパーフェクトな椅子が見つかったらぜひおしらせください。

      • 返信どうもありがとうございます。

        このブログのエッセイ書き(下調べも伴いますね)と他の方がおっしゃているように、玄人レベルの腕の写真の添付そして返信と時間がかかりますでしょう。存分に楽しませていただきながら、背後の努力は、よくよく承知しています。

        何のために書いているのかの壁。ぜひ、乗り越え、意味を見出し、このブログを継続してください。
        以下は、そのためのちょっとしたヒントです。

        Sunnysiderさんは将来、小説を書きたいとの計画がおありなのではないでしょうか。このブログがご自分の小説の題材や詳細情報集めの利用につながりませんでしょうか。

        再び、村上さんの登場ですが、彼には、日常の生活でアンテナにかかってくる情報の膨大な引き出しがあって、小説を書くときにそこをしばしば覗いて、取り出してくるのだそうです。

        例えば、彼の「そうだ、村上さんに聞いてみよう」シリーズの雑誌風の本(確か3冊出ています)お読みになったことはありませんか。私はこのシリーズが大好きです。読者のありとあらゆる質問に村上さんがまじめに答えるのです。おかしい。面白い。人間にはさまざまな悩み、喜び、悲しみがあるのだなあと人間の側面がつかめます。彼はこれらの情報をひきだしにしまい、直接にではないでしょうけれど、加工して使用しているのではないかと推測をしているのですが。

        言いたいことは、ブログを継続していただくように、切にお願いしますということです。これは、寝かせずに、餅つき仕立てで参りますね。

  4. いつもついつい寝っころがって本を読む爺でございます。

    それはさておき、本を読むときの椅子について普段あまり考えたことがありませんでした。何故なら寝っころがって読むからです。すみません、小学生のようなコメントになっちゃって……。そういえばここ数年、洒落た本屋さんが増えたせいか、椅子などが置いてあってなんとも助かります。本を読む空間って大切ですよね。

    それにしてもダイニングチェアの前脚が洒落てますね~、イタリアっぽい曲がり方だなあ。すみません、何の根拠もないですが。非実用的とのことですが、インテリアとしてはとても素敵ですね~、倒れてさえこなければ。

    村上さんの新作、4月頃に出るみたいですよ。

    • 森のくまさん

      寝転がるのは畳ですか、それともベッドや布団?
      ソファーに横になって腕置きの部分に頭をつけて、寝袋に胸から下すっぽり入って本を読み、眠くなったらそのまま寝る。これがわたしの贅沢でございます。
      あの椅子、肩こりのときに背中とか首をぐいぐい押し付けてマッサージ器にはなります。あら、こんなこと書いていたら、所帯じみたライフスタイルがわかってしまいますねぇ(笑)

      村上情報ありがとうございます!発表されたばかりですね。でも内容に関する情報がまだないのがやきもきします。

  5. 釉子さんへ

    返信の返信ができないので別のスレです。

    評価をしていただいて光栄です!
    数年間Flickrで写真をアップしてきたのですが、写真だけでは語れないことを日本語で書く場所を作りたかったのがブログをはじめたきっかけです。結局、言いたいことがいっぱいあるおしゃべりなオバちゃん的発想です。下調べとかはなしに、自分が思っていることをつらつら実験的に書いているもので、誤字脱字とか言葉遣いが変なのは、パブリッシュした後に修正していますし、写真は撮りためたものや、過去にFlickrに載せたものを再利用しています。(そういう写真はリンクしています)リンクの貼付けに時間がかかったりはしていますが。

    釉子さんのような方に読んでいただけて、激励までいただけるのは本当に嬉しく思います。

    • 返信の返信はできない ? いまだ、ブログのルールがつかめていないのですが。あくまでも中枢のSunnysiderさんへの往復通信が1ユニットになるわけでしょうか。横のつながりはないわけですね。

      それにしても、このエッセイには多数の反響が集まっていますね。おめでとうございます。

      私も読書は椅子に座るだけでなく、立ったままあり、寝っころがりありで、その時の状況によって変わります。でも、それを述べはじめると、このエッセイの本題から離れちゃいますね。でも、いいでしょうか。

      立ったままは、これ、意外と頭に入りますよね ‐ 本屋の店頭での立ち読みは気もそぞろで、そういうわけにはいきませんが ‐ 寝っころがる(でも、寝袋に入ってという本格型は試したことがありません。寝袋ないし。

      寝っころがり派の森のくまさん、Sunnysiderさんが、その時お読みになる本は文庫とか、単行本でも薄めな本なわけでしょうか。

      塩野七生さんの分厚い単行本の「ローマ人の物語」‐ 全15巻-が年に1冊づつ出版されていた頃ですが、読者の一人に、「寝っころがって読んでいます。」と、言われて、塩野さん、ムッとして (私がそう感じただけですが)「エッ、とんでもないことです。」と、おっしゃっていました。

      作家に敬意を表して、正座をして読むべきだったのでしょうか。塩野さんは私が私淑をしている作家ですので、それがルールだと言われたら、案外それを守って、正座もしていたかもしれません。でも、別にそんなルールは聞きませんでしたので、私も重い本をあれこれと工夫をして支えながらが、寝っころがって読んでいました。

  6. こんにちは
    私も寝っ転がって読むか、立って読む派です!
    図書館の椅子なのに、カフェみたいですね^^
    腰を沈めて、ゆったり座れる感じで良さそう
    夏にはテーブルを出すのですが今は冬なのでコタツが出てます
    インテリアとしての椅子には、憧れが有ります!

    私は昼間の窓際、日当たりの良い場所で本を読むのが好きです
    寝っ転がって!(笑
    そしていつの間にかウトウト…ですね^^
    立って読むのは、ほぼキッチンなんですよ~
    夕食の準備中に鍋の火の番をしながらです

    sunnyさんのキッチンの椅子は
    ピッとまっすぐのびた背もたれと
    クニュッて曲がった前足がなんとも対照的ですね^^
    村上さんは、『ノルウェーの森』しか読んだ事無いのですよ~
    コレは、本当大好きなんですし、思い入れも有るのですが
    ナゼでしょう…彼の他の作品を読もうという気が起きないのは?

    • フォレさん

      おおーっ、コタツの存在を忘れていましたぁ!いいなぁ、あのインテンシブな温かさがいいんですよね。キッチンで立ち読みはやったことがありません。普通料理中には音楽が大音響で流れているので。火の番をしながらの読書ってなんかクラシックでいいです。

      風呂に入りながら読書っていうのもありなんですよね。Kindleとか ipadはいけませんけど。

      作家は好き好きとかタイミングがありますから、読みたい気になったときに読むんでいいんじゃないでしょうか。旅行と一緒で、行きたいときに行きたい場所にいくのが一番いいように :-)

  7. sunnysiderさま

    ちょっと家を留守にしていて、戻ったばかりです。
    う~む、興味深いブログ…。
    すぐに戻って、じっくり、読ませていただきますね。
    とろあえず、どうぞよろしくお願いします!!

  8. 村上春樹さんの四月に出る新作、1Q84の続編を期待していたけど、出版社が文藝春秋なので、別の作品ですね。
    小5か小6のとき、ホンの少しの間だけ在校していた女の子が、なんとなく1Q84のヒロインと重なって、その後を読みたかったけど、続編がはないと宣言されたみたいで残念です。
    信じられないくらい汚くて、誰も近寄らなかったけど、一度 目があったとき、彼女がかすかに微笑んだのがいまも忘れられません。

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