なれるものならなってみたい詩人

9

ロイヤルオペラハウスで、はらはらと泣いてきた。
結核を病むミミが愛するロドルフォの元で死を迎えるラ・ボエームのエンディングが悲しいのとパフォーマンスに感動したのと両方で。

わたしはオペラ通なんかではまったくなく、ロイヤルオペラハウスのメンバーシップを持っている知り合いから、チケットがあるから行かないかというお誘いを受けてのこのこ出かけていったのである。オーケストラボックスの真横で舞台の一部は観えないけれど、舞台から手がとどきそうな距離の席よ、という話に惹かれて。

WP_000061

間近で発されるボリュームのある歌声が波のような揺れを描きながら届いてきた。音とは振動でできていることが耳だけではく肌をも通して伝わってきたし、音波のウェーブが目に見える気もした。

何をいっているのかわからんイタリア語を聞いてどこが面白いのかという意見もわかるけれど、やっぱ、singing languageといわれるイタリアンの音の響きはじゃないと、あの美は伝わらんでしょう。鼻に抜けるフランス語じゃパワーが欠けるし、音が綺麗じゃない英語じゃエレガンスがないし、訳すとやたらめった長くなるであろうドイツ語じゃあ野暮である。心地よい流れるような歌声に圧倒されながら英語の字幕で詩の美しさを愛でることとなった。思い出される歌詞をランダムに書き出してみると….

I like the things with a quiet magic that has love and spring time.
I like the first ray of sunlight.
Am i still beautiful? You are as lovely as dawn.

歌詞とは詩だよなぁ。夜明けのように愛しいなんて直喩、小っ恥ずかしいけど好きだ。詩なんて最後に読んだのはいつだろう。James Fentonの In Paris with youという詩の一節が思い出された。そりゃあ恋人とふたりでパリにいればすべてがポエムになる。壁がはげててて天井に割れ目があるようなしけたホテルに泊まっていても。住んでいればそこにあるのは単なる日常だろうけど、全世界にとってはパリのロマンスの地だ。

In Paris with you

Don’t talk to me of love. I’ve had an earful
And I get tearful when I’ve downed a drink or two.
I’m one of your talking wounded.
I’m a hostage. I’m maroonded.
But I’m in Paris with you.

Yes I’m angry at the way I’ve been bamboozled
And resentful at the mess I’ve been through.
I admit I’m on the rebound
And I don’t care where are we bound.
I’m in Paris with you.

Do you mind if we do not go to the Louvre
If we say sod off to sodding Notre Dame,
If we skip the Champs Elysées
And remain here in this sleazy

Old hotel room
Doing this and that
To what and whom
Learning who you are,
Learning what I am.

Don’t talk to me of love. Let’s talk of Paris,
The little bit of Paris in our view.
There’s that crack across the ceiling
And the hotel walls are peeling
And I’m in Paris with you.

Don’t talk to me of love. Let’s talk of Paris.
I’m in Paris with the slightest thing you do.
I’m in Paris with your eyes, your mouth,
I’m in Paris with… all points south.
Am I embarrassing you?
I’m in Paris with you.

そしてこのラ・ボエームはパリのモンマルトルに住む若くて貧乏なアーティストたちの話。詩人、画家、音楽家に哲学者の4人である。まぁこれに小説家を加えるとして、古典的にはクリエイティビティを自己実現につなげる手段はこの5タイプしかなかった。でも今の時代、いろんなカタチで自己表現ができるし、またメディアもある。絵描き(旧い言葉だけどいい響き)と音楽家は変わってない気はするけれど、詩人人口は確実に減っていると思う。詩は写真をはじめとするヴィジュアルアートや豊富なジャンルの音楽に転化されているからか。ミミの職業であるお針子の仕事も、一部のプレタポルテなどを除いて中国のスェットショップに流れていっているしなぁ。

9 コメント

  1. ロイヤル・オペラでラ・ボエームですか。いいですね~。オペラには通じていない私にもあのメロディーはおなじみです。音波のウェーブが流れてくるのが目にみえるようだったというサニーサイダーさんの表現された光景、それこそ、目に見えるようでした。ところで、先週、全く音のない場面に浸ったときの効果というのを経験しました。外国語映画部門で今年のアカデミー賞も受賞した、マイケル・Haneke監督の仏映画「Amour」を観たときです。上映中、場内がずっと静かだなあとは思っていましたが、最後の場面がサット消えたとき、そういえば、BCMが全くなかったことに気がつきました。俳優、女優の思いが何ものにも介助されることなく、深かく心にヒダにしみ込んでしまったようです。荷物を取り上げようと顔を下に向けたとたんにハラハラと涙がこぼれ落ちました。一人ででかけたのですが、一人で来てよかったと思いました。言葉は不要でした。一人で思いに浸って帰宅の途につきました。秋の入り口、ちょっと薄ら寒い雨の夕方でした。
    話は変わりますが、「いいね」にボタンを押しても結果がでないのですが、やりかたを教えていただけますか。

    • 釉子さん

      「Amour」はわたしも観たい映画です!BGMが全くないのですか。たしかに映画のBGMはイメージを強調するのに効果的ではありますが、画面に妙な色が着いているようなものですね。それを排除したところから浮き上がるものの強さが「何ものにも介助されることなく、深かく心にヒダにしみ込んでしまった」のでしょうね。

      映画は誰かと行った方が後で意見を交換できて楽しい場合と、ひとりで噛み締めたい場合とあります。じゃ、わたしもひとりで観ることにします。

      実はわたしもよくわからないままブログのプラットフォーム(wordpress.com)を使っています。いいね、ボタンのことはですが、ブロガーさんたちはGravatarを持っています。写真はいれなくてもOKですからサインアップしてみられたらいかがでしょうか。
      https://en.gravatar.com/
      いいね、を押したいというお気持ち、ありがたく受けとっておきます!!

      • 返信どうもありがとうございました。「Amour」ですが、trailerをチラと見ただけで、reviewも一切読まずに出かけました。一人で出かけたのも偶然です。それが結果としてよかったというだけです。サニーサイダーさんも自然になるようにでお出かけください。レビューですが、例えば「ガーディアン」に出ていたもの。あんなに詳しくページを割いて書かれたものを前に読んでしまうと、自分で観たときに感じる衝撃が大きく減退すると思います。サラでお出かけになることをお奨めします。「いいね」の押し方ありがとうございました。試してみます。
        これまでも何度も押させていただきましたよ。でも、いずれも裏方へ消滅の憂き目。In Paris with you の歌詞すてき。サニーサイダーさんのお好みの都市はパリですか。

  2. こんばんは^^
    オペラ、は未体験です!!
    というか、私、歌舞伎も狂言も能も見た事がなくて><。
    オペラもそういった、伝統芸能の一つだと
    なんとなく思っていまして、とにかく敷居が高い感じです。
    所でオペラって英語で上演される事も有るんですか?
    って、なんか恥ずかしい質問ですみません(汗
    詩人さんってそういえば現代ではあまり聞きませんね
    自分を表現する媒体としては写真よりはストレートで
    とてもシンプルだと思いますけどね^^
    私の本棚には『中原中也』が一冊入っております!

  3. フォレさん

    わかりますーっ。通の世界になちゃってて敷居が高い感じ。でも先入観なしで見物気分でいってみて白紙の自分に響くものがあるかどうかみてみるのもよいんじゃないでしょうか。自分に共鳴してくるものがなければ、それは合わんかったということで、よさかが解らない自分が劣っているという風にとる必要は絶対ないし。わたしの場合、以前数回観たオペラはこれほどがつーんとくることがなかったわけで、本人の心的体調もありますしね。

    ちなみにEnglish National Operaというカンパニーがあってこちらでは英語でオペラを上演しています。

    フォレさんの本棚って奥が深そうですねぇ。:-)

  4. 東京のど真ん中にお住まいで、なんでも手の届くところにある環境で、好きな道で生計をたてていらっしゃる……うーん、こちらの方が羨ましいです。

  5. イタリア映画の「イル・ポスティーノ」をご覧になったことがありますか?
    映画に出てくる郵便配達さんが、南米に帰って行った詩人に贈るため、彼なりの方法でじぶんの島をテーマにした詩を作る(書くのではありません)シーンがとても素敵。もしご覧になっていなければぜひ!きっと、詩が書きたくなります。
    ウィキペディアの説明を借りると、
    『1950年代の一時期、祖国チリを追われた実在の詩人パブロ・ネルーダが、ナポリ湾のカプリ島に身を寄せた史実にもとづき、架空の漁村を舞台に物語は展開する。映画内で居酒屋兼食堂だった場所は、カプリ島と同じくナポリ湾に浮かぶプローチダ島である。現在(2012年)は、レストラン兼カフェとして営業し、また店内には映画に関連するものが展示してある。』
    映画の舞台になった店も、いつか行ってみたい店です。

コメント欄