ロードムービー3選

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前の記事で書いた「奇跡」は子どもたちの小さな旅の話。映画館の扉から出ると冷たくてやけに新鮮な2月の空気に晒された。そしたら、主人公に寄り添いながら心の旅にでることができるロードムービーってあたしすっごい好きなんじゃない、と気づいた。これまでにいろいろと観てきたなぁと、さまざまなシーンがで蘇っては消えいった後に、頭の芯ですーっと形をなしてきた映画、3編について。

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「リトル・ミス・サンシャイン」(Little Miss Sunshine) 2006年
これほど映画そのものを体現しているポスターも珍しい。本当に車での旅。この車種はアメリカと日本ではフォルクスワーゲン・ミニバスとよぶらしい。ここイギリスではフォルクスワーゲン・キャンパー。(車の名前はイメージがしっかりこびりつているから結構はずせないポイント)それも黄色。乗客はくせのある家族たち。ロードムービーの要素をきっちり備える映画だ。仕事と家庭を両立させて疲れ気味の母(トニ・コレット)、ポジテイブに人生を勝ちにいくことを講演してそれこそサクセスしようと奮闘中のサクセスライフコーチの父(グレッグ・キニア)、空軍パイロットになるまで一切喋らない誓いをたてたティーンエージャーの息子、ぽっちゃり気味でさえない眼鏡をかけているけれどミスコン優勝を夢みる7才の娘、老人ホームを追い出されたヘロイン中毒のエロ爺(アラン・アーキン)、自殺未遂を犯したアカデミックでゲイの叔父(スティーブ・カレル)。カリフォルニアで行われるミスサンシャインコンテストに娘が急遽出場することになるけど金はない。おまけに爺さんと自殺未遂と喋んないティーンエージャーを置いていくわけにいかない。ニューメキシコからカリフォルニアに向けて家族みんなを乗せたオンボロ車がひた走る。

家族とは実はばらばらの人生を歩いているんだけれど、切り離すことのできない人たち。オンボロのフォルクスワーゲン・キャンパーに乗り合わせているようなものだ。

キャラクターと俳優たちがぴったりはまっている。でもこの家族ドラマのバランスをうまくとっているのは、女としての余計なものを削ぎ落してるのにやっぱり女っていう感じのトニ・コレットを起用して、母が母親過ぎていないところにあるんじゃないかな。光っているのは影の主人公といえる爺さんのキャラとそれを演じるアラン・アーキン。英語圏の映画業界はアメリカ、イギリス、オーストラリアから人材調達できるから、役者層が厚くて恵まれているよなぁ。

 

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『ブロークン・フラワーズ』(Broken Flowers)2005年
昔浮き名を流した元ドンファンである独身中年男ドンは、ある日差出人不明の手紙を受けとる。昔の女が別れた後に彼の息子を生み育てたというのである。おせっかい者の友人がドンの女たちの情報からリストをつくり、車の中で聴くカセットまで編集して、過去の女たちを巡る息子さがしの旅に送り出してしまう。
「Lost in Translation」でもみせていたようにLostな男では天下一品のビル・マーレイを主演に対し、「女」の標本たちである豪華女優陣。そして友人役のジェフリー・ライト。配役の妙である。手紙を含め女たちの周囲に鍵となるドラマチックで安っぽいピンクを配し、エチオピアンミュージックのサウンドトラックを絡めて、さりげないエンディング。いやぁジム・ジャームッシュ健在だねぇと膝を打ちたくなった。

去っていく女がジュリー・デルピー。昔の女がジェシカ・ラング、フランセス・コンロイ、シャロン・ストーン、そしてティルダ・スウィントン。それまでの人生、つまりヒストリーをばーんと打ち出す女たちだ。各々個性を出しながら、いわゆるfaded blonde(色褪せた金髪女、ある程度年をいった容姿が華やかだった女性で、中年とは同義ではない。赤毛だけどこの役では黒髪のティルダ・スウィントンは別格)のゆるさと密度の濃さを感じさせる。女の描き方がカリカチュア的でありながら上手い。

いくらジム・ジャームッシュ監督といえども「ストレンジャー・ザン・パラダイス」みたいなのを一生撮っていくわけにはいかない。ある種のゆるさと洒落が解る大人のための、大人の「男」が撮った映画だ。

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『セントラル・ステーション』(Central do Brasil、Central Station) 1998年
ウォルター・サレス監督によるロードムービーといえば若き日のチェ・ゲバラを描いた「モーター・サイクルダイアリーズ」だろう。ガエル・ガルシア・ベルナルが好演していて、一度でいいから若い男になってみたいものだ(そんなな無理だ!)と思わせる好きな映画だけれど、心にひっかかるという点でこっちかなぁ。

小説にしろ映画にしろ物語性のあるフィクションのメインキャラクターには読者または観客を惹きつける魅力というか好感度、likabilityが必要とされる。極悪人にもそれなりにチャームはある。でも、この映画ほど好感度の低いキャラにはお目にかかったことがない。それでストーリーをひっぱっていくのだからかなりの力量だ。

リオデジャネイロのセントラルステーションで、文盲の人たちを相手に代筆業を営む中年の女ドーラ(フェルナンダ・モンテネグロ)。そう聞けばどんな感動のヒューマンドラマが生まれるのかと思うだろうが、金はもらっておきながら書いた手紙を投函せずににぎりつぶすようなビターな女だ。いや、女という言葉にも値しないほど女っぷりがない。おばさんというほどもかわいくない。その彼女のもとへ、もう何年も音沙汰なしの夫への手紙の代筆を母と子が頼みにくる。母が駅の横で交通事故で死ぬのを目撃し、あげくに孤児となった男の子を人買いに売りとばすドーラ。臓器移植の道具にされるだけだと妹から説教された彼女は、しぶしぶ男の子を請け戻しにいく。そこから少年の父親さがしの二人旅がはじまる。途中で子どもを置き去りにしようとしたりするささくれだった女。ビターな味がわずかに塩キャラメルにかわっていくのを感じながら旅が続いていく。

世の中はハリウッド女優みたいに眉目秀麗な人たちばかりでなく、またあっと驚くドラマに満ち満ちているわけではない。ヒロインになりそうにないかさついた人間に焦点をあててストーリーを展開していくやり方に好感をおぼえ、見終わったらすぐまた観てみたいと思った映画だ。こういう役が演じられるのようになるのも女優冥利につきるんじゃないだろうか。

 

あーあ、なんだか本当に自分も旅にでたくなってきてしまった。

6 コメント

  1. ロードムービーいいですね~、ロードムービーというと『パリ・テキサス』が頭に浮かぶ年頃です。ナスターシャ・キンスキーの美しさとライ・クーダーの渇いたギターの音が好きでした。

    それはさておき、この3つの中では、『リトル・ミス・サンシャイン』と『ブロークン・フラワーズ』を観てます。『リトル・ミス・サンシャイン』では、エロ爺のファンになっちゃいました。「こんな爺さんになってみたいものだ」などと思いました。黄色いキャンパーもよかったなあ。

    『ブロークン・フラワーズ』はジャームシュ好きとビル・マーレイ好きには外せない映画でした。10代の頃、横浜の映画館で『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を観たときは衝撃でした。それからすっかりジャームッシュ・ファン。90年代後半の作品は観てないのですが、『コーヒー&シガレッツ』で久しぶりにジャームッシュ熱が復活し、『ブロークン・フラワーズ』で「さすが!」と唸りました。

    「Lostな男」って表現、ぴったりだなあ、『ロスト・イン・トランスレーション』もお気に入りです。映画の内容はさておき、舞台と選曲が最高にイカシテいたと思います。カラオケボックスでプリテンダーズを歌うヨハンソンが可愛かった。そしてラストのジーザス&メリーチェインの「Just Like Honey」にノックアウトでございました。

    • 森のくまさん

      『パリ・テキサス』を見逃していました。また観てみたいものです。いまみたら結構レトロ感が漂いそうな感じ。いまなら、もっと深読みができると思います。娘の立場より父親の年齢に近くなっちゃったもので。ナスターシャ・キンスキーとヨハンソンって演技は大したことないと思うんですけど、すごい存在感がある女優さんですよね。

      ジムジャームッシュはわたしもしばらく遠ざかっていたんですが、『コーヒー&シガレッツ』で復活したのがくまさんと一緒です。同年代なんでしょうか。
      何年か前に「Permanent Vacation」「 Stranger than Paradise」「 Down by Law」の三枚組DVDをプレゼントでもらったんですが、黒と黄色のクールなパッケージでした。

      ぜひリトルミスサンシャインのエロ爺を目指してがんばってください!

  2. こんにちは。hinajiroです。

    ブロークンフラワーズ、人気ありますねぇ。私は実は苦手で、それなのにタイトルに惹かれて何度も見ちゃうんです。で、この映画がブログを書き始めたきっかけでした!間違って何度も見て、何回見ても最後のシーンになってようやく前にも見たことに気づくんです。それくらいわけわかんないんですー。

    一番最後の映画、すごく観たいと思っていたのにすっかり忘れていました。多分似たようなタイトルの映画を見たので、テレビで放送していてもすっかり見た気になって逃しているんだと思います。なんか悔しい、、、、、

    私はモーターサイクルダイアリー好きですねぇ。途中でガラッと雰囲気が変わって別の二つの映画を見たような気になります。一番気になったのはものすごくマイナーシーンなのですが、教授か町の名士?か誰かが書いた原稿を読んで、ありきたりだとか使い古された表現だだかってズバリ言ってしまったところ。なんて英単語を使っていたのか知りたいんですけど、なかなか調べがつかなくて。

    あとはロードムービーじゃないかもしれませんが、Rabbit Proof Fence がすごく好きです。ひたすら歩いている姿を映しているのに、あれほどドキドキして、つらくて泣きながら観たものはないです。

    これからもかっこいい映画のレビュー楽しみにしてます。

    • hinajiroさん

      映画の大御所にお越しいただてうれしいです。コメントありがとうございます。

      ブロークン・フラワーズは好きと嫌いに別れちゃうでしょうねぇ。もう洒落で作っちゃったって感じですから。名前もドンファンのドンだし、ロリータちゃんもでてくるし、ふつうは父親探しのはずが息子さがしだし、エロスの象徴のピンクに、会話も普通じゃないし。斜に構えて観ちゃってOKの映画じゃないでしょうか。そういうノリのわりに豪華女優が揃っているのはジム・ジャームッシュだからでしょうね。ティルダ・スウィントンも昔はデレク・ジャーマン監督の常連だからこんなの好きかも。

      モーターサイクルダイアリーズはおっしゃるとおりbuy 1 get 1 freeみたいでしたねぇ(笑)。街の名士にお追従を言わないところ憶えています。チェ・ゲバラのパーソナリティの描写って感じなのかな。また観たい映画なんですけど、映画館でマチュピチュとかアマゾンを観ちゃったからうちのちっこいテレビじゃあの臨場感がないだろうと思ってそのままです。大きいテレビ買ってほしいんですけど….

      Rabbit Proof Fence は知りませんでしたが、ググってみたらおおーっ、観たい映画です!オーストラリアのアウトバックとアボリジニは興味のある素材なんです。Bruce Chatwinの “The Songlines”という本が好きなもので。

      言いたい放題を書散らしているブログです。読みにくいところも反論もいっぱいあると思いますが、またのお越しをお待ちしています:-)

      hinajiroさんのブログはこちらです。
      http://blog.goo.ne.jp/hinajiro23

  3. こんばんは^^
    どの作品も、未確認でございます~
    ロードムービーってジャンルを意識した事無いのですが
    ある年代には多く作られていた様ですね!!
    sunnyさんはお好きなのですね^^
    うーんと『俺たちに明日はない』は…あれはロードムービーでしょうか!!?
    結構好きです!!

    Little Miss Sunshine、ポスター良いですね!!
    ポスターの感じから古い映画なのかな?と思ったら’06ですね~^^
    笑いと、最後にホロっとさせてもらえる
    おきまりでも、そういう映画、安心して観ていられますね^^

  4. フォレさん

    ふーむ。ロードムービーっていう言葉そのものが旧いのかしらん。わたしは森のくまさんの世代に近いみたいなので。髪は薄くなっていませんけど(くまさん、すみませんっ!)

    そうです。「笑いと、最後にホロっとさせてもらえる
    おきまりでも、そういう映画」は必要です。小難しい話ばっかりじゃ人生疲れちゃいますから。だから「ハングオーバー」とか「ブライズメイド」みたいなガハハな作品も大好きです。

    おすすめ映画ありましたらよろしく!

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