旅のお友の本選び

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夏休みの準備のハイライトは本選びだわ、と毎年思うのだけど1年経つとすっかり忘れている。

通りがかった街の本屋のショーウィンドーに映っているのは、夏向きのショートヘアにしてノースリーブのワンピースを着たオリエンタルの女。そしてデニムのショーツから母よりずっと長い足をのぞかせた若い娘で、買ったばかりの麦わら帽が入った買い物袋を提げている。ガラスの向こう側の本たちにはBUY ONE GET SECOND HALF PRICE (1冊買うと2冊目は半額)のシールがついていて、忘れていた夏のお楽しみを思い出した母娘は、以前にこのブログでご紹介したWaterstonesの入り口にふらふらと吸いこまれていった。

気分によって本には当たり外れがある。プールサイドでサングラスを通して読む本と秋の夜長に暖炉の前で週末の夜に読みたい本は違う。ぐぐっと入り込めるのを読みたい反面、ちょこちょこと途中で頭を休憩できるものがよい気もする。これまでに最悪に合わないチョイスはハニフ・クレイシのIntimacyだった。妻と子どもを捨て若い女を選ぶことにした中年男が家を出る前日に去来する想いを綴った作品。妻子ある中年男(オットのことです)と四六時中一緒にいる羽目になる夏のリゾート滞在に、男の内面を辛気くさく吐露する本は重すぎた。冬の深夜にひとりで赤ワインを飲みながら読むべき本を家族旅行に持っていってはいけませんな。

Kindleもあるし、スマホにもKindle アプリを入れているけれど、電子デバイスは砂とか海水とか日焼け止めクリーム(絶対誰かがきちんと蓋をするのを忘れる!)とは取り合わせがわるい。去年は海上に突き出した木製のデッキングの上のサンラウンジャーに寝転がってipodでKindleを読んでいた息子の手が滑り、わずか1センチのデッキングの板の隙間から海へドボン。そのときの息子の動きの素早かったこと。sh*tという言葉が聞こえたと思ったら2秒後には海へダイブし、海女さんのごとくipodを海底から拾ってきたけれど、RIP 南無阿弥陀仏ipod。おまけに今年の宿泊先にはインターネットがないから新しい本がダウンロードできない。このご時世に実にめずらしいことですが、それだけ時代がかっていて安普請な宿らしい。

ということで、濡れても平気、読んだ後に売りとばすこともできる紙の本がいい。読んでみたいと思っていた本と、偶然みつけた短編集。バックアップに旧知の作家の軽めの新作。こういう無難な組み合わせに落ち着つく。


レジに並んでいたら、イニシャルの形をしたステンレスのクールな栞が売っている。旅行中の本は、行ったレストランやバーの名詞みたいなカードを栞にするべきよねとつぶやき、買いそうになりながらも元の陳列棚にもどす。

そういえば、このあいだずいぶん久しぶりにBruce Chatwin (ブルース・チャトウィン)の The Songlinesを開いたら、ケアンズのバックバッカーズホステルのカードが出てきた。その名もGone Walkabout。この本専用の栞にしていたんだと思うけど、それすらすっかり忘れていた。主人公である白人の男がアウトバックで原住民であるアボリジニの文化に触れる小説で、オーストラリア滞在を予定している人には特におすすめ。日本語版は「ソングライン」というタイトルでハードカバーがでている。(こちら)。ロンドンのサザビーで印象派アートの専門家として若くして重職についたけれど、目に支障をきたしたのをきっかけに職を辞し、旅に生きたライターは、フィクションと紀行文を合わせた本と小説を数冊残して1989年に48歳で急逝した。(バイセクシャルでAIDSであったことは死後に公表)彼の本には強烈に旅心を刺激される。糸の切れた凧みたいに何処かへ飛んでいくことの必要性に迫られてしまう。アマゾンUKでチェックしてみたらヴィンテージ・クラシックの分類になっていて驚いた。80年代に書かれた本はもうクラシックなのか。Bruce Chatwinはもっと長生きしてほしかったライターのひとりで、この本はバカンスよりプロパーな旅のお供だな。

栞によるとこのホステルのレートは1989年にはドミトリーが一泊8ドルで、今は17ドル(まだ営業していることがネットで判明。なんだかうれしい)ということを考えるとブルース・チャトウィン、イコール、ヴィンテージという図式が数量化できる気もする。バックパッカーズの善し悪しは、場所、設備にオーナーのキャラに加えて、そのときに同宿していた旅人の面子による。意気投合して飲みに出かけたり、逆に嫌みを言われたり。出会いによって色が変わるのが旅だよなぁ、なんて遠い昔の旅の空と透明度25メートルのグレートバリアリーフに想いをはせちゃったりしてみる。

先週のガーディアン紙に夏の読書のおすすめ記事がありました。
英語の小説を読まれる方の参考になれば幸いです。
http://www.guardian.co.uk/books/2013/jul/14/best-holiday-reads-2013

ちなみに冒頭の写真はトルコのダルヤンから葦が生える河を小舟でいったところにある全長4.5kmの砂の洲iztuzu beach。Google mapはこちら

Happy holidays. Happy reading.

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モノクロ写真好きによる「こだわってるこれについてひとこと言いたい」ブログ。犬が歩けば棒に当たる的に社会・本・映画・フードなど。使用写真は自前です。

17 コメント

  1. 数年前の夏、旅先でダウン。東京に帰って病院に行ったら
    このままでは余命2ヶ月と診断されました。医者の言うとおりではなく、自分の発想最優先でがんばったら、いまはまぁまぁ元気です。
    ダウン以前の夏は、ひとりで約2週間近くロングドライブ。助手席には本がどっさり。半分は20歳くらいまでに読んだ本。新しい本は旅先で立ち寄った本屋さんで探すことが多かったです。初めての本屋さんでは、行きなれた本屋さんでは気づかなかった本が目についたりして新鮮な気分での本選びもできて、ぼくは楽しい。
    この夏は、もう一度ゆったり過ごす夏。うちから150キロ圏内でカフェ巡りとかしながら、のんびり本を読もうと思っています。
    ダウンした夏からさらに数年遡った夏、仕事が忙しいストレスで一度心肺停止まで
    いったことがあります。うまく言えないけど、そのとき以来本の選び方にも少し変化があったように思います。
    この夏は、いつもの年とはちょっと違う、電話帳くらい分厚い本を持ち歩くことになりそうです。

    • 激務をこなされているんですね。無理をしなきゃいけないお仕事なのかもしれませんが、ある線は越さないように。お体をお大事に。
      カフェ巡りっていいなぁ。カフェは自分が何が好きで何を大事に思っているかがわかる場所だと思いませんか。癒しと自己発見がいっしょになっている感じ、といえば古くはお寺参りだったんでしょうけど。
      素敵なカフェがみつかっていい読書体験ができる夏でありますように!

    • 3カ国語できるって見識に幅ができますよねぇ。いいなぁ。
      シャーロックといえば、BBCが現代バージョンのSherlockというテレビシリーズを作ったんですが日本では放映されていませんか。携帯、インターネット、コンピューター、DNAなどの科学捜査を駆使するシャーロックなんです。わたしは気にいってて再放送をいま観ています。http://www.imdb.com/title/tt1475582/

      イタリア語原作でおすすめの翻訳小説があればぜひ!

  2. My Russian friend told me “if you want to read Pushkin and appreciate his writings, you must read in Russian.” I think the comment applied to the books of all different languages. It would be so nice if we have such ability. As for me, sad to say, it is limited to the Japanese and English. Right now I am reading Dan Brown’s Inferno, which has a lot of Italian names involved and it is kind of fun. The second book “in waiting” is Pulse by Julian Barnes. I tend to buy books on impulse and sometimes ended up being “Tsundoku-shugi”. I have many books which I have not yet read.

    • 翻訳にはできることが限られてはいます。でも自分が読めない言語で書かれた海外の文学にふれることのメリットもあるとは思うんです。真髄に触れることはできなくても。
      とはいえ、京極夏彦(お読みになってないかもしれませんが)の作品を英語で読んだときは、哀しくなりました。彼のウリである日本語の美が欠けたバージョンなんか金と時間の無駄でした。ダンブラウンはほんとにpage turnerですよね。アメリカではJulian Barnesの知名度は高くなさそうな気がしていたのですが、どのように評価されているのでしょう。そうそう、impulsive purchase、わたしもしょっちゅうです。アマゾンのスーパーセイバーデリバリーのワンクリックの罠というのでしょうか。積ん読、うちにもいろいろあります。

  3. Sorry, I forgot to mention. I must be a “Henjin” because if I am visiting foreign country on holidays, I do not take books to read except travel guide book. I am just too busy exploring the places.

    • 旅のスタイルの違いではないでしょうか。のんびりリゾート滞在かアクティブ観光派か。特にアメリカにお住まいだと外国はlong haulの移動になり、観光ベースになるパターンが多いのではないかと推察します。
      ヨーロッパは近隣諸国の寄せ集まりですから、chillng outする場所がたまたま異国っていう感じ。特に天気のわるい寒めの国の住人は(北欧、ドイツ、イギリス)は太陽を求めて南欧へいきます。シアトルからLAに行くようなもんです。いま地図をみて気がつきました。アメリカはでかい!。

  4. Yes. America is a big country! (so is Australia!) Entire Japan fit into the State of California! I have met an elegant, elderly Japanese gentleman in San Francisco years ago. He just finished traveling throughout the U.S. His first words was, “I can’t believe we (Japan) started the war against America. The size of energy and Kibo (scale) and the resources they have were beyond my imagination. There was no match!” My answer to him at that time was goofy “Hai sodesune~.”
    As for the style of traveling. I agree with you. There was certain cross-cultural differences in travel style. As for me, I just enjoy wandering around places where most tourists show no interests. Meeting visiting country’s locals, talking to children, even dogs and cats are part of my travel enjoyment.

    • 外界との関わり方っていうんでしょうかねぇ。フォトグラファーの目で世界を観ていらっしゃるんですね。そういうのとても好きです。

  5. こんばんは^^
    旅先に持って行く本を探す、という事は
    私実はした事が無いのですよ~
    だから、何処に出掛けるか、どんなシチュエーションで読もうか
    なんて考えながら本を選ぶってちょっとワクワクします!
    出掛ける時は車の移動が多いのですが
    かなり早めに用意して、出掛けた先の駐車場なんかで
    車の窓を開けて読んでる事が有りますけど
    これが意外に集中できるんですよね~
    車のシートが心地良いんじゃないかな?と思っております^^

    1冊買うと、2冊目半額ってすごいですね!
    普通の新書ですか?こちらでは見た事無いですよ~
    私はちょっと前に江戸川乱歩を読んだんですが
    夏の蒸し々した中で読むにはちょっと……でした(笑
    そういえば、スピンってそちらの本にも付いてますか?
    紐の栞なんですが
    私仰向けで読む事が有って、読んでる最中にたら~んって
    顔に垂れて来たりするのでくすぐったくてイライラしてます(笑

    • 旅行というと知らない土地にいってあれこれ見回る感じですよね。たぶんフォレさんも愛車で出かけてアクティブに過ごされるんでしょうね。海辺のホテルでのんびりするのがわたしの夏なので、本は必需品なんです。泳いだり、街の市場に出かけたりはしますけど。車のシートって意外に本を読んだり音楽を聞いたりするの、いい空間ですよね。ネスカフェのコマーシャルで大昔そんなくつろぎのシーンがあった気が。

      2冊目半額はよくやっています。量を売りたいわけです。2冊目をどれにするかえらい悩むんですよー。それか3冊は決まったけど、もう1冊選ぶか、1冊もどすかとか。スピンという名だということ、はじめてしりました!!紐のことですね。スピンは見ないですねー。まぁハードカバーの本をほとんど買わないっていうのもありですけど、スピンがついた本を買うとうれしいです。ほんと、本の読み方はいろいろあるみたいですねー。顔に垂れてるところを想像してくすくす笑わせてもらいました😊

  6. ごぶさたしてしまいました。オーストラリアの牛と羊と内陸の男爵たちの話を書く作業に入っていました。そうして久しぶりに開いたらば、先週も、今週も、楽しい話題のBlogが届いていました(もう来週を届けていただく時になっていますね。早い!)。

    アッ、憶えていますよ。Sunnysiderさんが、ケアンズとグレートバリア・リーフへ休暇で出かけられた時のこと。旅先から届いた絵葉書の内容(思或と夢に満ちた)を巡って、同僚一同、しきりに旅先に思いを馳せたこと。同僚の1人ヒロくん(憶えていらしゃる?)が「ナウイんだよな。彼女」といったことまで。ところで、来週、恵さんがお寿司を食べに、メルボルンから飛行機で日帰りでシドニーに来るというので、ヒロくんも入れて3人で会いますよ。ブログのこと話題に上げます。

    • 「内陸の男爵」というのは英語では何になるのでしょう?Sarcasmかと思ってしまいましたが、豪州については知らないことが多すぎます。
      絵葉書を送ったことすら憶えていません!素晴らしい記憶力に脱帽です。
      (このコメントのやりとりをご覧の方のために申し上げておきますと、釉子さんは元上司です)ナウいというのは当時ある意味で最上の褒め言葉であり、いまとなってそんな死語が使われたのかと思うと、自分自身がこの記事で触れたようにヴィンテージだわと思ってしまいます。ヒロ君の方がナウかったと思うんですが。
      お寿司を食べに日帰り旅行なんて洒落てますね。恵さんとヒロ君によろしくお伝えください。お寿司や酒の肴にどうぞ。美酒の添え物になれれば光栄です。
      Hiroeさんからメールをいただきました。とても素敵な方をご紹介いたただきありがとうございます。

      オーストラリアとの縁は繋がっていて、オーストラアのスポーツブランドのカタログ/ウェブサイトの翻訳も片手間にやっています。そっちの方がいま忙しいのとホリデーで8月はブログをお休みすると思います。

      • 質問にお答えしますね。
        「内陸の男爵」は「Barons of the Bush」です。Sarcasmでなく、マジメな話題です。オーストラリアだけのtermってありますよね。「The Dictionary of Australian Colloquialism」という辞書もありますし。

        書いていると、bush と outbackはどうちがうかなどを、解き明かさなくてはなりません。次は、それに合った日本語をどうするかという課題がありますが、その語を聞いて日本人の方が何を想像されるかですね。面白いです。

  7. 初めまして。S・サルガドについて調べ物をしている内に、こちらにたどり着きました。写真と文章がとても素敵だったので、夢中で拝見していると過去の分まで全て読んでしまいました。どうすれば、こんなにcoolなブログが綴れるのでしょう・・・末永く楽しませて下さい!

    • 心に浮かんだことをつらつらと書き連ねているだけのブログを辛抱強く読んでくださってありがとうございます。サルガドについて調べられていたということは、かなりアーティな方のはずで、下手っぴいな写真を載せていて恥ずかしいんですが、このようなポジティブなコメント、とってもうれしいです😊 

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