ウディ・アレンの「ブルー・ジャスミン」と翌朝の苦いコーヒー

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unfoldという言葉をつよく意識させる小説や映画があります。包んであるものを開くとか、話を展開する、みたいな意味の言葉で、縮緬の風呂敷包みを広げるさまを連想してしまいます。それも紫の。わたしの中では、そういうフィクションはかなり上等の部類に入るんです。どこかに割と目立つ疵があっても。

ウディ・アレンの新作「ブルージャスミン」(Blue Jasmine)を観終わったときも、頭に紫の包みが浮かびました。

あらすじ

ニューヨークで上流階級の特権的生活を送ってきたジャスミン(ケイト・ブランシェット)が離婚を期に財産を失い、サンフランシスコで質素な暮らしをするシングルマザーの妹ジンジャー(サリー・ホーキンス)の元へ転がりこむ。精神的に疲弊していて抗不安薬ザナックスを常用し、あたかも誰かに話しているような独り言をいうジャスミン。オンラインでインテリアデザインの資格をとりたいという彼女は、まずコンピューターのクラスに行きはじめ、生計をたてるために歯科医の受付の仕事を始める。男運が悪いと妹の選ぶ男を卑下する彼女は、以前のライフスタイルから培ったエレガンスと美貌、社交スキルでパーフェクトな男をゲットするかにみえるが…..

フラッシュバック(回想シーン)でストーリーをunfoldしていく、というフィクション展開のクラシックな手法がうまく功を奏しています。イメージの連続である映画では、一行空けるとか、章をかえる、といった小説でできることができない。ジャズミンに強烈な独り言を言わせていることで、フラッシュバックをスムーズにつなげ、またこの怖い独り言にキャラクタライゼーションを強化させる設定は上手いよな、と思います。

ウディ・アレンの映画はいつも、「ウディ・アレンの」というかぎ括弧つき扱いだけれど、この映画は抜きん出たケイト・ブランシェットの演技が映画を食ってしまっている感があります。

よくできた映画です。でも痛い話。欲望というなの電車をベースにしているそうです。上映開始が遅い回を観て帰宅したのが12時を回っていて、そのまま寝て、翌朝の起きたらざらりとしたほろ苦さが残っていました。感情的二日酔い。愚かな女の救いようのない話は、一夜明けたら人類普遍的な愚かさをシニカルに映す鏡になっていて、オンラインでインテリアコーディネートを学ぶためにコンピューターを勉強する、ということと同様にポイントレスなことばかりを自分もやっていて、結局あたしだって自分自身の檻の中から出ていけないじゃないか、などとコーヒーを飲みながらつぶやいていました。

これってペーソスなのか、でもペーソス(pathos)ってそもそも何なんでしょう?これまでよくわからないまま使ってきた言葉に強烈な疑問が生じました。Oxford English Dictionary によるとa quality that evokes pity or sadness。ギリシャ語のsufferingという意味から派生しているらしい。日本語に訳されるところの哀愁とか哀感と微妙な温度差があります。

ペーソスはよくユーモアとセットて使われます。ペーソスだけじゃあ、痛いだけ。そこに温かみが加わることで、痛みも救われる。そういえば、この映画にはウディ・アレンの他の多くの作品に感じられる温かみが欠けてるわ、と冷えたコーヒーをすすりながら思いました。メモっておきたいと思う名言もなかったような。

2257217057_64872f4496_o他のひっかり点を挙げると、この姉妹の女の確執は底が浅い。どちらも養女だから似ていない、という設定だけれど、同じ家庭に育った共通項と子どもの頃の歴史を思わせる深みがない。そこを掘り下げちゃうと話の焦点が合わなくなるからわざと割愛したものの思われるけれど、女二人をだしておいて一応それらしい台詞はあるもの表面的。わたしはこのようなフィクションには、女の関係にもっと重層感を求めてしまう。

生活の中にコンピューターやスマホがあまり登場しないのがリアリティに欠けるというか、時代遅れ感を感じてしまう。今どきの子どもは家の中でピストル撃ちごっことかするか?ビジネスの話が書類と固定電話ばかり。ジャスミンが行くアダルトエデュケーションセンターも90年代の雰囲気。でもそれってわざとなのか、ウディアレンの映画だから。

よくできたフィクションです。でも好きな映画特選集の仲間入りはしないなぁ。

(追記 19th October — この映画の評価は、このブログを読んでくださっている方々とのコメントのやりとりにより、ちょっとかわっています。こういうのってブログの醍醐味というか、うれしいと思います。)

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モノクロ写真好きによる「こだわってるこれについてひとこと言いたい」ブログ。犬が歩けば棒に当たる的に社会・本・映画・フードなど。使用写真は自前です。

14 コメント

  1. またもや、サニーサイダーさんの洞察の深い、映画の鑑賞感ですね。それで、この映画、ケイト・ブランシェットはシドニーに在住のオーストラリアの女優ですので、話題になり、大きく取り上げれています。なのに、まだ、観ていないのですが、この鑑賞感によって、「観に行かなくては」とせきたてられております。

    確か、シアトルのHiroeさんが、以前、コメントで「お薦めです」と書いていられました。Hiroeさんの鑑賞感を伺いたいですね。お願いします。

    • そうなんです。Hiroeさんからいただいたコメントにこの映画があったので、観ようと思っていたんです。イギリスでの上映開始はUSよりかなり遅れました。
      オージーといえば、ケイトブランシェットとナオミワッツ(この人はイギリス生まれだけどオーストラリア育ちですよね)の2大女優がんばってますね。ケイトの怪演(?)ぶりは見物ですよ。

      • Sunnysider-san,

        If you going to see Blue Jasmine expecting a few laughs or simply enjoy her European designer clothing she is wearing, you will be shocked what you are seeing. My confession. I was one of these audiences. It is not Midnight in Paris type movie. As Bruce Handy (U.S.) said in his movie review, Woody’s Blue Jasmine is perhaps his Cruelest -Ever film. I agree. The culprit of Sunnysider-san’s morning coffee spoiler. Sunnysider-san wrote her comment eloquently already so there is no need for me to go any further, except one thing I would like to add, which is the last scene. The close up camera showing her face, illuminating the harsh realities of life she is facing. Broken and fragile Jasmine stare into the air after she stopped talking to herself. It was a loose-end finale but I felt she might be alright when I saw her faint smile around her lips. Is this just my wishful thinking? My next movie will be Gravity!

  2. おはようございます!
    Blue Jasmin、ケイト・ブランシェットが好きなので気になっているのですが、前回見た「To Roma with Love」があまりにもハズレ(私的に…どこをとってもとても薄っぺらく、コメディとしてみようとしてもお腹からは笑えない、鼻先でふふんって感じだったし)で。またあんな風な後味を感じるなら、見たくないしなぁ〜と。ウッディ・アレンの昔の作品は好きなんですけど。sunnysider さんの感想、とても参考になりました♪ 「ざらりとしたほろ苦さ」、絶妙な表現ですね!
    映画話ついでに。英国の映画監督・脚本家のSally Potterの映画、ご覧になったことありますか?私は「Tango Lesson」(彼女自身が演じています)で彼女の作品にひかれ、この間「Ginger & Rosa」というのも見ました。重層感を感じる女の関係、で思い出しました♪

    あ、今さっき、ちらっと「ジーンズが最高に似合う男…」の記事が目につきました(→)
    ライアン・ゴズリン… キュートですよね〜。「Notebook」では初々しくて華奢な体だったのに、最近妙にかっこいいですもん。彼の写真に一言ついた「Hey Girl」シリーズ、ご存知ですか?面白いです(笑)

    • こんばんは。雨の月曜の夜です。ああ、まだマンデーだ。

      Sally Potterはですねぇ、気にはなっていたんですが、オーランド以来観てないんですよー。でもpapricaさんおすすめとあれば、まずTango Lessonをみなくちゃいけないな。Ginger & Rosaはポスターというかカバーというか二人のガールズの写真がどうも普通っぽいティーンにみえて避けちゃってました。よしよし、観ます。

      Hey Girlさっそく載せました。うふふ。place beyond はめちゃかっこいいです。撮り方が全然他の映画と違います。ライアン好きにはおすすめです。

      • p.s. Sally Potterの映画はインディーなタッチが深いです。そういうのが苦手だとダメかもしれませんネ。彼女ってきっととても暗い一面があるんじゃないかな、って気がします。G&Rの方もダークなトーンだったし。あ、そうそう、ライアンの「Lars and the Real Girl 」見ましたか〜。笑っちゃった。

  3. こんにちは。こちらは月曜日、もうすぐ午後3時。祝日でお休みです。ポイントレスの話からペーソスの語源にまつわるくだりがすごく面白かったです。家の奥さんがウッディ・アレン恐怖症なのでなかなかみることは難儀なのですが、面白そうですね(笑)ひとりで観に行きましょうか。毎週末に更新ですよね・・・週末のお楽しみですね。

    • ウディアレン恐怖症はわかる気がします。こういうのがスマートで気が利いているんだよ、えっ、わかんないの、こまるね、みたいな感じで押し付けられちゃうと、引きたくなります。うちも映画その他のテイストが夫婦で異なるので、いつも別行動です。これを一緒に観にいって、年に1度のご奉公がこれで終わったと冗談風の本音が聞かれました(苦笑)

      映画館で絶対観た方がいい映画ってあるじゃないですか、ヴィジュアルスペクタクルか、世間から隔絶してどーんと入り込むべき古典的白黒映画とか。ケイトブランシェットの怪演鑑賞はDVDで十分ですよ。

      週末の深夜にしか書く時間がないんですが、ま、書きたいことがあれば、という感じでアップしていますのでよろしく。

  4. こんにちはー
    私も映画は最終のものを観る事が多いのです
    帰りは運転しながら夜の道を帰る間中
    車の中がその映画の雰囲気でいっぱいなる感じです
    楽しい映画だったら思い出して笑っちゃたり!
    どんよりしたり、消化不良でもやもやしてたり…
    sunnyさんは翌日のコーヒータイムに思い返されるのですね

    養女同士の姉妹って凄いですね!…姉妹って設定じゃなくても??(笑
    ペーソスという言葉を初めて聞きました
    日本語だと『哀愁』って感じなのですね!
    哀愁も笑いも観る人のツボにハマるかどうかだから
    私ががっつりハマった映画とかが意外とネットで評価低いと
    勝手に凹んだりしてますよ、めんどくさいヤツなんです(笑
    そして、ケイト・ブランシェットさんの目力が凄いですねー!

    • こんばんは。

      ペーソスって奥が深いクラシックな言葉であり、レトロ(昭和な)な響きもあります。フォレさんはコンテンポラリーって感じですもんねー。
      映画ってひとりでいって、帰りにじーんと浸るのもいいもんです。が、趣味が全然違うツレ(それも早寝タイプの)と一緒に行ったもので、帰りの車で映画のイメージに浸れませんでした。やっぱり、一緒にいく人は選ばないといけまsんね。最終上映のウディアレンは観客の年齢がたかかったです。自分が若いわ、て思ったくらいだから(苦笑)

  5. Hiroeさま

    なぜかreplyの replyの replyはできないので、別のスレです。

    二日酔いの勢いで書いちゃった記事ですが、日が経つにつれ、この映画の意図されたドライさが結構いい感じで沁みてきました。アニーホールやマンハッタン等の初期の作品とつい比べてしまうのですが、小説家の筆運びが年とともに変わっていくように、映画監督の作るものも、多少枯れてくるというか、余計なものをとりさってさらりと映像を組み立てると、いうのでしょうか。今だから作れる映画な気もします。ラストシーンの観察はさすが、鋭いですね。じつはNY にもSFにもいったことがなく、「映画のような」情景に映ってしまいます。行きたいです。

    • You were so right. I have noticed a few of my favorite movie directors were making movies much different ones than their earlier periods. Pedro Almodovar’s latest movie, I’m So Excited was a puzzle for us because we were expected to see his usual melodrama of human relationships. Instead, what we saw was a x-rated, rather shallow “wannabe” comedy. At 64, he might have wanted to experiment something different. It received a good reviews but most of the audience thought otherwise. Hayao Miyazaki-san is in mid 70’s now. I am patiently waiting to see his final movie, Kazetachinu. It will release in the U.S in February 2014.
      I think you will enjoy New York and San Francisco. Please visit there sometime.

      • Padro Almodovar もいい作品を創ってきていますよね。I’m so excitedは見逃しています。Broken Embracesがいかにも老境にさしかかった監督がつくった映画という感じだったので、(わたしはとてもすきな映画です。赤の使い方が粋で、またペネロペクルスという女優さんのすごく濃い女的資質がよく使われていて)、なおさら観てみなくっちゃと思います。(Bad Educationから Gael Garcia Bernalに惚れました)

        Jim Jarmuschはお好みかどうかわかりませんが、彼もpermanent vacationの頃を振り返ると、近年の作品を撮るようになろうとは思いもよりませんでした。Broken Flowers好きなんです。大人のブラックなセンスが。酸いも甘いも噛みわけた年代になってからだから創れるもの、というのは往々にしてスケールダウンしていたり、シンプルだったり、表面的には違う様相をしているので、hay dayを過ぎている、とか無理にがんばっちゃっている、という評価をされがちなのが残念です。今だから、違う筆さばきができるというのに。まぁ、見方次第ですね。映画も小説も個人体験だから、自分がいかに作品を捉えるか/楽しむか、ですよね。

        そういうことを鑑みると、このブルージャスミンも今だから撮れる映画で、ドライで痛い話でありながら、いい作品だと思うようになりました。

        風立ちぬもたのしみですね。

  6. I too liked Broken Embraces and Bad Education. Penelop Cruz looks so alive when she speaking Spanish in Almodovar’s movie. Yes, I like multi talented Jim Jarmusch. I enjoyed his movie, Broken Flowers. I thought using Bill Murray was a clever idea because Bill Murray possess pathos so naturally, sometimes even when he was in comedy movies. Jim Jarmusch see through it but, I think he is rather under appreciated actor in regular Hollywood movies.

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