似てない夫婦のクリスマスストーリー

15

4年前のクリスマスの朝にほんとうにあったお話です。

長年連れ添った夫婦は似てくる。そういいますが、彼女と彼は並んで歩いていても、たまたま横を通りがかった赤の他人にしかみえませんし、背の高さも着ているものも歩くペースも違います。

「ウディ・アレンの映画観に行かない?」
「僕にウディ・アレンを観ろというのか」
「観たじゃない昔、一緒に」
「いつ、どこで」
「ほら、あれ、ミア・ファローが出ていて、ドクターヤンっていうチャイニーズのおじさんが出ていて。ノッティングヒルのなんていったけ、あそこ」
「Electric Cinemaだろ。それよりジョン・アダムスのNixon in Chinaのオペラ中継が来週映画館であるんだよ」
「あのチャイニーズオペラみたいなやつでしょ。独りでいって」

「何読んでるの」
「トマス・ピンチョン。読み終わったら貸すよ」
「そのうちね。このイアン・マキュアンよかったよーーーー。読むべき」
「そのうちね」
そのうちというは、ネバーの類義語であることはおたがい承知しています。

観たい映画、読みたい本、聞きたい音楽、食べたいもの、行きたいところなどあらゆる好みが違い、彼は暑がりで彼女は寒がり。なぜ一緒になったんだろうと彼女はときどき思います。恋愛とは大いなる誤解と幻想の産物である。そんな格言めいた言葉を自分で考えだすくらいです。おまけに着るものから支持政党、食べ物を買う店からアイロンのかけ方まで、自分の意見とやり方を貫く人間が喜ぶであろうクリスマスプレセントを買うのはほとんど不可能です。

友だちが趣味のいいジュエリーやスカーフを身につけていて、どこで買ったかをきくとよくハズバンドからもらったといいます。伏せられた睫毛に幸福感を宿しながら。でも彼女はそんな台詞を言ったことはありません。彼からもらうものは電気製品や携帯やカメラ関係のものばかりだからです。それなりのヒントをあげなきゃだめなのよ、といわれて、あの店で売っているこういうデザインのがいいと公言してみましたが、シルバーのネックレスや品のよいマフラーなんてもらったことがありません。

だいたい喜ばないかもしれないものを義務感にかられて買うことは無駄遣いだ。そういうおたがいの了解のもと、その年はクリスマスプレセントをおたがいには贈らないことにしました。欲しいものを欲しいときに買った方がいいし、ボクシングデーからはじまるセールで買った方がお得です。でも、子どもたちの手前、ないのはちょっと格好がつかないので、自分で買ってラッピングしてツリーの下に置いておく。合理的。ストレスフリー。たださえストレスだらけの師走。家族中のプレゼントや先生への付け届けなど頭が痛いわけで、頭痛の種がひとつすくないのはウェルカムです。

とはいえ、クリスマスカードは必要です。でも彼のことだから、ハズバンドへと書かれた赤や緑のカードなんかあげたら、ひどい皮肉屋だと思われるでしょう。12月に街へでると売られている膨大なクリスマスカードの量に目眩がしそうになります。この国で何千万種類のカードが店頭に並んでいることでしょう。パルプの量は何百本分の木に相当するのではないかと思うほどです。

足を踏み入れたカードショップでは、マライア・キャリーが唄うAll I want for Christmas is youが盛大に流れていました。そんな時代もあったのかと思いながら、あるカードに目をとめました。シックでちょっとアーティな感じです。マットな黒。クリスマスの装飾であるヤドリギを描いただけのミニマリストですが、シルバーのキラキラがついているので地味でもない。これなら彼の好みに合いそうです。この手のカードって意外と高いのよね、と裏返すと、予想した値段の半分の値札がついていました。店員がまちがえたのでしょうか。これだっ。釣った魚に高いカードは買いたくない。

クリスマスの朝、期待感に胸を膨らませた子どもたちがバリバリとラッピングペーパーを破る中、彼女は自分の名前が書かれた封筒からカードをとりだしました。彼の筆跡は相変わらず丸っこく左に傾いています。人間見かけは如何様にも変わることはできますが、筆跡は案外変わらないものです。

すると、唐突に彼女は大声で笑いはじめました。わけがわからない家族は、恐ろしい勢いで笑いを発する彼女を呆然と眺めるしかありませんでした。彼女宛の封筒からでてきたのは、シックでちょっとアーティでおまけに廉価な黒いカードだったのです。銀色に光るヤドリギの下にはChristmas Kissesと記されていることに、彼女はそのとき気づきました。

 

15 コメント

    • In the end, all is well…そういいたいですね。でもまだまだlife goes onです。
      今年はお世話になりました。インテリジェントでウィットに富んだコメントをいただくのはとても励みになります。素敵なクリスマスをお迎えください。そしてよいお年を。

      • I always enjoy reading your comments and thoughts very much! Whilst reading your Christmas card story, the words came up to my mind…”Opposites Attract”!!
        The following Solstice Greetings by Susan Cooper sent to me by my friend this morning. (Seattle time) I would like to share with you, if I may.
        “And so the shortest Day came and the year died. And everywhere down the centuries of the snow white world, Came people singing, dancing, To drive the dark away. They lighted candles in the winter trees; they hung their homes with evergreen; They burned beseeching fires all night long. To keep the year alive.”

        Welcome the 2014 and pray for the world peace.

  1. なんて素敵なクリスマス・ストーリー!
    ちょっぴりビターで、辛口で、でも最後に笑いあり。だから貴方たち二人は今も一緒なのね、って思わせるストーリ。心が温かくなりました♪ こういう生活の中のひとコマ、大好きです。

    あと4日でクリスマスですね。ご家族と素敵なホリデーを!

    • papricaさんちはほんとにラブラブ。おたがいを分かり合った二人が寄り添っているって感じで素敵です。古畳化していないのを見習いたいと思います。
      楽しいクリスマスをお過ごしください!

  2. ウワー、面白いお話!です。
    カード選びをするとき、彼と彼女の頭の中では、同じ消却除法のプロセスが行き交わったのかしら。だとしたら、相手をどう思っているかの認識が全く同じなんですね (「釣った魚に余分な金は使わない」 には笑いました)

    しかも、星の数ほどと出まわっているカードの中から選んだ1枚が同じもの、これはLotteryです。運命の奇蹟。選ばれるべくして選ばれた2人だったのですね。この絆は、並みでなく、すてがたい。

    本物のツリーの下で、笑いを交えて、Merry なクリスマスを!
    テーブルにはどんな正餐が出揃っているのかしら?

    • このカード、どうしたのかおぼえてないんです。紙類はカードでもなんでもリサイクルにだしてしまう薄情な人間なので。残っているのはこのJPEGファイルだけ。そのときは数年後にこうやってブログで公表することになろうとは夢にも思わなかったのです。

      そちらはクリスマスはいかがおすごしですか。ビーチでBBQじゃないですよね。クリスマスデーとボクシングデーはわたしはキッチンから解放されます。Cクン、料理も上手いのでおまかせです。

      そちらもMerryなクリスマスを!

  3. ひえー、面白すぎる!
    まじすか!

    ポール・オースター編 ナショナル・ストーリー・プロジェクトよりも面白い。
    来年は作家デビューしてください!
    メリークリスマス♪
    この縁、サイコーでっす。

    • まじっす。
      オースターの本は全部読んだはずなんですが、National Story Projectは知りませんでしたー(汗)いいこと教えてくださってありがとうございます。ちまちまと読みはじめたところです。うれしい。
      楽しいクリスマスを!

  4. 仕事から帰宅して一杯やりながら読まさせていただきました(#^.^#)
    P・オースターの”オーギー・レンのクリスマス・ストーリー”のような
    クリスマスの日にNYタイムスで掲載されてもおかしくないようなショート・ストーリーですね~♪

    トマス・ピンチョン・・・私のNGワードです(笑)
    むか~しポストモダン文学がちょっと流行っていて”重力の虹”を読んでみたのですが
    途中で挫折してしまいました~(*´ω`*)

    sunnysiderさん、良いクリスマスを~!(^^)!

    • おおーっ、オーギー・レンのクリスマス・ストーリーですね。小型で布張りの装丁でお洒落ですーー。わたしがもっている本は表紙の絵が曲がって貼り付けられているので、残念なことにちょっとチープな感じがします。探し出してクリスマスの雰囲気に浸ってみますね。

      重力の虹は分厚いし、強烈ですよねーー。トマス・ピンチョンは、わたしにはビッグすぎ。彼の方はいまピンチョンの新作Bleeding Edgeをお楽しみ中です。いいんです。わたしには今回日本からもってきた40冊の文庫本があるから。

      週末なのにお仕事おつかれさまです。しかし帰宅後の、それも深夜にやる一杯は美味い! ハッピークリスマス、そしてよいお年をお迎えください。

  5. 素敵なクリスマス・ショートストーリーをありがとうございます♪
    ほっこり気分になった反面、とてもリアルに感じました。
    なぜならこの夫婦、まるで私たち?てくらいよく似てます。
    いえ、同じクリスマスカードを選んだことはないのですが。笑
    特にダンナ様の性格、似てますね〜。
    特別に欲しくないものをプレゼントされても嫌でしょ、という考え方です、はい。
    なんで結婚したの?と聞かれればダンナ様が私と正反対の性格だったからと答えます。
    それはそれでうまくいくこともあるし、いかないこともある。
    まだ離婚をしてないということはある程度うまくいってるみたいです。笑

    素敵なクリスマスを♪

    • Dear ミセス綴じ蓋さま

      割れ鍋に綴じ蓋といいますが、割れた鍋がばらばらにならないようしっかり抑えている綴じ蓋の役割を彼らはわかっとらんのですなぁ。その蓋のうえにちょこんと乗っているいるのがハル坊氏でしょうか?
      楽しいクリスマスでありますように:-)

  6. こんばんはー

    誰かと出会った時に会話のネタとして
    同じ趣味や共通点を見つけたりしてしまいますが
    逆に違う部分を探して自分の知らないことを相手から
    教えてもらうってのも結構ありかな~なんて最近思います
    なんでしょう、年取って余裕が出て来ましたかね(笑

    同じカードを選んでしまったことに
    ほっこりしたりうるっとしたりするより
    あっはは!と笑ってしまうところが好きです~^^
    なんかあきらめついた瞬間というか(笑

    というか上記のコメントのみなさん
    難しい本を読まれてますねー@@

    ツリーの飾りつけ、すみましたか?
    私も近所のスーパーのレジ待ちのときに
    流れてくるマライアのクリスマスソングにあわせて
    口ずさんでいます^^

    メリークリスマス☆

    • フォレさんってかなり交遊範囲広そうだから、趣味が違う人たちもしっかり許容範囲なんでしょうねぇ。早熟っていうのか早生っていうのかな。
      あきらめがつた瞬間っていういい方、まさに真実をついているのに気がつきました。洞察力が鋭い!
      クリスマスカードを書いているときに、娘がマライアとかマイケルブーブレとかさんざん音楽をかけてくれたので、もうクリスマスソング漬けで頭が死んでいます。

      楽しいクリスマスとお正月を!

コメント欄