ナイジェル・スレイター&料理本の変遷

8

色や形や材質やサイズを選ぶ面倒くささがない。ということで、写真集か料理本はわたしへのクリスマスプレゼントとしては安全パイです。本日また1冊手元にやってきました。ナイジェル・スレイターの「Eat: The Little Book of Fast Food」 。

Nigel books初めて買ったナイジェルのレシピ本は「Real Fast Puddings」(1993)で、ノッティングヒルの料理本専門書店Books For Cooksで1994年に買ったことまで憶えているのは、書店の栞がはさまったままだから。フードポルノグラフィの台頭が目立つ時代らしく、鮮やかな写真が表紙を飾ってはいましたが、中は相変わらずの藁半紙で、文字中心のペーパーバック。同じスタイルの「Real Fast Food」も同時期に出ています。

80-90年代にかけて興味深い料理本たちはみな、文字ばかりの、紙の質がいまひとつの、今から思えば冴えないデザインでした。バインディングもお粗末で、かなりお世話になったRichard Olney の「Simple French Food」 という本はいまではページが外れてバラバラです。もちろんハードカバーのグロッシーな本もあったのですが、財布の懐具合と好みに合致しなかったのです。また、いまなら普通にスーパーで買える異国の食材もソーホーのデリカテッセンやセルフリッジのフードホールまで足を運ぶ時代でした。Claudia Roden の「A New Book of Middle Eastern Food」は、わくわくするほどエキゾチックだったのです。

絶版になっている大判ペーパーバック「Real Good Food」(1995)も、やはり文字が中心ですが、ちょっと凝ったイラストいれるという当時のトレンドを踏襲していました。フォントも考えているのがうかがえます。

そしてミレニアムを境に、料理本のアーティスティックなヴィジュアル化が顕著になります。まず写真が増える。それもアンティークの銀製のスプーンやフォークに、古びた木製テーブルやリネン等、スタイリングに凝っていきます。チョコレートケーキなら、そのリッチなブラウンが引き立つピンクやパープルのテーブルリネンや、ダークな藍色がかった背景など、色の合わせかたもアーティスティックに。

「Kitchen Diaries」(2005)は、季節感を繊細に伝える日記形式で、生活の中の食の在り方が沁みてきます。写真も暮らしを考えさせるものばかり。料理本はレシピ本からライフスタイル本に変貌を遂げつつあることを強く感じさせます。「Kitchen Diary Ⅱ」も続いて発売。

家庭菜園と料理を直結させた非常に美しい 「Tender」 (volume 1&2)がでたのが2009年と2010年。デザインに凝った本が増えていることは、本好きにはうれしい限り。

2013年9月に上梓され、12月にわたしの手元にやってきた本は20cmx15cm。厚さは4.5cm、と小ぶりでチャンキー。布張りでリッチなイエローにブラックのフォント。正直なところ、料理本に薄めの色の布張りというのは油だの卵だのの染みだらけになること必須で、まことに非実用的。ですが、トレンディーなレトロ調で、スタイルを非常に強く意識したハンサムな装丁に惚れました。白紙の分量が非常に多いところもクール。食のトレンドであるmisoやmirinを使ったガイジン和食もいくつか紹介されています。

1993年出版と2013年出版の本の間に流れた20年。それには多くの社会背景の変遷が含まれます。まずはアマゾンの台頭。多くの一般書店が街から消え、アマゾン価格で定価より若干安いのは値が張る大型本の販売に有利です。そしてインターネットの普及。ブロガー人口も増え、ほしいレシピはグーグル検索すれば簡単に出てくるようになり、単なるレシピ帳的な本の需要は下がる一方です。e メールやSNSの普及で、いまやレシピは世界を駆け巡っています。

フードフォトグラフィの変遷も目覚ましいものがあります。デジタル化、Photoshopの普及でグラフィックなフードポルノグラフィへと進んだ後、ポラロイドSX70, Lomo, Holgaなどのトイカメラの人気、Instagram人口の爆発的増加を反映した画像へシフトしています。

料理本はレシピ本ではなくいまやライフスタイル本となりました。料理研究家はライフスタイルguruみたいなもの。離婚/詐欺罪裁判で泥沼にいるナイジェラ・ローソンはハイソでリッチな幸せな女というイメージを売り、実家がパブであるジェイミー・オリバーは、気さくなお兄さん(もうおじさん化してますが)が友だちや家族とわいわいいただくカジュアルダイニングを売っています。ナイジェル・スレイターが売るコンセプトである本物の季節の食材を使った生活に根ざしたシンプルな料理、そして家庭菜園をもつ静かなライフスタイルは、性別や年齢を超えたところで深くアピールするものがあります。

一般書籍が電子書籍化している一方で、料理本は売れ続けています。紙の媒体でしかできないこと、そして求められているものを把握し、進化を遂げています。スタイルとビジュアルを強く意識し、テーマ/コンセプトを明確にする。ナイジェルスレイターはガーディアン/オブザーバーという左系インテリ層を読者に持つ新聞でフードコラムを書き続けているライターだけに、社会と出版界の変化に敏感に対応するスタイリッシュな本、つまり買って手元に置きたいと思わせる本を出し続けています。

彼の料理番組(ナイジェルのシンプルクッキング)は日本でもDlifeでときどき放映されているようですが、こういう出版事情を踏まえて観ると、興味深いかもしれませんね。彼の本を日本でも出版してほしい気がするのですが、このように装丁とデザイン、タイポグラフィーに凝った本を別の言語にすることは難しく、またコストがかかるわけで、それに見合う需要があるか、という問いに対する答えはノーだろうなとは思うのです。料理本に対する意識の相違もあるでしょう。また、調理器具のコンロは最低4つ、オーブン中心、煮込み料理が多い、買い物は1週間分まとめ買いするというイギリスのキッチン/生活事情は、日本のそれと大きく違います。だからこそ、学べるところも大きいとは思うんですが。特に時間の余裕がある主婦の領域だと思われがちな煮込み料理は、共働き家庭の味方です。仕事から帰ってきて寝るまでの間に仕込んでおいて、翌日帰宅後にすぐ食べれるのに助かっています。

ナイジェルに関する過去ログはこちらです。

ふたつの自叙伝 ナイジェル・スレイター&ジャネット・ウィンターソン

グラストンベリー・フェスティバル的ブラウニー

クリスマスプディングはドライフルーツに洋酒が入ったどっしりヘビーなデザートで、うちではあまり人気ではありませんが、プディングの残りものの活用法として、これはイチオシ。どっしり系のフルーツケーキの残りでも代用できます。前述のReal Fast Puddingsに載せたものから若干分量を変え、7−8年くらい(?)前にオブザーバーに発表されたもの。

バニラアイスクリーム&ホットクリスマスプディングソース(4人分)
Vanilla Icecream & Hot Christmas pudding sauce

xmas pudd
材料
200g クリスマスプディング
50g  バター
50g  ブラウンシュガー
オレンジ半分の果汁
大さじ4 ブランデー
上質なバニラアイス 8スクープ

小ぶりのフライパンにバターと砂糖をいれ溶かします。クリスマスプディングを崩してオレンジジュースと一緒に加えます。沸騰させてブランデーをいれ火をつけてフランベ。弱火にしてちょっと煮詰め、ガラスの器に盛ったバニラアイスの上に熱いソースをかけていただきます。写真のプディングがソース状になったものです。クレープやパンケーキと一緒もいいですよ。

クリスマスの日に、手にした一冊の本からこうやってプログを書くなんていう能天気なことをやっているのも、料理上手なパートナーがクリスマスディナー作りから後片付けまで一手に引き受けてくれるおかげです。この記事がたぶん今年最後の更新になります。拙文を読んでくださった方、コメントまでくださった方、ありがとうございました。よいお年をお迎えください。

8 コメント

  1. 素敵な料理本というのは手元にあるだけで自分のスキルが上がった気分になります。気分だけですが。
    本というのは手元にあって愛着がわいてくるものなんだな、と最近実感してます。
    1ヶ月ほど前、念願のkindleを購入しました。まだ慣れていないせいか物語を読むというより書かれている情報を読んでいるという感じです。
    なので本当に好きな本はやはり書店で買うと思います。
    kindle便利ですけどね〜。
    ちなみに私が作ったツリーチョコですが、レシピをネットでぐぐりました。
    が、英語だったため分からないところはスルー。(ほとんどスルーですが…)
    今から思えばそのスルーしたところに何か重要なポイントが隠されていたのではないかと思っている次第です。でなければあんなにてんやわんやになるはずがない…

    sunnysiderさんもよいお年を!
    素敵な文章を来年も待ってま〜す♪

    • “物語を読むというより書かれている情報を読んでいるという感じ”って本当にそうです!
      なんでも新しいもの好きなので、Kindleは2年以上前に買い、そのよさを吹聴してきたのですが、最近やっぱり紙の本にもどっています(苦笑)また、買いたい本のほとんどがkindleバージョンでは出ていないという問題点もあるのですが。積読本は、いちおう存在感はあるじゃないですか。見えるわけだから。でもKindleのファイル開かず本は見えない存在なので、お気をつけあそばせ~。

      あのツリーチョコはかわいい!娘が同じようなのを近所のベーカリーで見たといっておりました。やってみようかな、来年。てんやわんやもたのしいクリスマスとお正月。今年はお世話になりました。アーティスティックでクールとほのほのという相反する要素いっぱいのブログ楽しませていただいてます。よいお年を!

  2. sunnysiderさんのBlog 「甘くてからくてほろにがいイギリス」はちょうど1周年を迎えましたね。
    私がやっている、1年間のできごとを8つくらいのコラムに分けた月別記録の日誌の今年の1月の主流欄に、Blog受信を書き入れていました。同月の本の欄にはJulian Barnes、料理欄にはJullie French Apple Cakeが見えます。

    このBlogで、私の日常生活は、華やぎを加えてもらえました。Sunnysiderさんの内側からコンコンと沸いてくる興味と関心の発露に、心よりお礼を申します。来年も楽しみにしています。

    クリスマスのディナーは、Cくんのふるわれた腕で、みなさん舌づつみを打たれたようですね。後片付けまで、引き受けるという徹底振りは根性が座ってらっしゃる証拠です。やはり、出会うべくして出会われたよきパートナー。その関係、育んでくださいませ。

    • 1年もったら辞めようと思っていたのですが、ゆうこさんのコメントのおかげで続いたといっても過言ではありません。英語圏に長いと、頭の中は言葉を超えた概念の沼と化していて、思っていることを生意気を承知で日本語で書きなぐるスペースを持ってみようという軽い思いつきが、このようなjourneyになろうとは…

      平和なクリスマスホリデーをお過ごしであることを祈ります。こちらの嵐と洪水の被害のニュースは伝わっていないでしょうか。Ashの勝利に続くクリケットのニュースの方がメインでしょうかね。停電中,浸水家屋多数です。テムズ沿いも洪水警報が出ていて、うちは丘の上なので水の心配はないのですが、庭の樹齢100年ほどの大木が幹から折れて倒壊し、いま後片付けに追われております。とんだ年末です。
      来年もよろしくお願いしますね。

  3. First of all, congratulations on your blog’s one year anniversary! I look forward to the 2014 blog.

    I am so sorry to hear your house was affected by the natural disaster. The news of England’s disastrous weather did not reported here, at this time. Perhaps the U.S. media were too busy covering own natural disaster caused by winter storms.

    On happier note;
    Your blog on cooking making me very hungry! I used to collect many large format gravure cooking books as well. Just going through pages were pure joy itself. Oh, yes, I challenged some of the recipes for dinner parties too.

    • With no earthquake or typhoon, England’s natural “calamities” never hit the world news headlines. Nothing is as dramatic or disastrous as snow storms in Canada or Hurricane in the Caribbean. We had two thirds of the old plum tree and two fence panels blown down. That was it! But the garden will never look the same without the tall solitary symbolic tree that is as old as our rickety Edwardian house. Summer 14 will be definitely different without hundreds of plums!

      I did try ruthless “danshari” a couple of years ago, getting rid of many books and started buying books on Kindle. But after all I succumbed to the power and magic of paper books. Cookery books are the worst as they take so much space!

      Thanks again for your visits and many heart warming comments.
      Wishing you a happy and magical New Year. Hope 2014 brings you lots of joy and happiness.

      • Thank you for the New Year wish. I hope the 2014 will bring us a good health, joyful days and a much kinder weather. I am in “mourning” for the loss of your beautiful old plum tree.
        Since I became “Ohitori-sama”, (by my choice) I have moved 3 times, downsized my surroundings accordingly. A joy of having a hundreds of books became a big headache each time. I sold some to the professional book buyers who came to my apartment (a very convenient service) and others I have donated to the city public library. But the trouble is… I keep buying the new ones! Buying a Kindle is still not in my plan. A couple days ago, I purchased a beautiful gravure book, 23cm x 28cm, 384 pages “Indian Nations of North America” published by the National Geographic. No kindle can bring me a joy of going through the pages of such book! I am smiling ear to ear.

  4. こんにちは

    毎年、気が付くとこの時期なんですよね
    一年の終わりという侘びしさと
    新しい年を迎えるというワクワク感

    お料理というと、今日本はおせちで賑わっております!!
    縁起物の食べ物がたくさんありますね~^^
    お料理の本は私余り買いませんが
    どれも出来上がりの綺麗なこと綺麗なこと!!
    テーブルクロス、お箸、お皿、どれも厳選されていて
    ぺらぺらとページをめくって見てるだけで満足してしまいます(笑
    本、というより雑誌が多いので、本棚に並べても今一つですが^^;

    やはり時代はペーパーレスなのでしょうか
    私は未だ電子書籍デビュー出来ずに居ますが
    使って居る方達の話を聞くと、思っていたより悪くない!
    という意見を聞きます~本を部屋に並べるスペースも省けるしって
    でも本が並んで居る光景が私はもの凄く好きなので
    『手元に置きたいと思わせる本』には私もたくさん出会いたいと思います

    そして、
    私の的ハズレなコメントにも丁寧にお返事を頂いたり
    また私の方へもコメント頂きまして有難うございました
    ご家族皆様、良いお年をお迎え下さい!

コメント欄