村上バージンに薦める1冊

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村上春樹を未読の人に1冊目としてどの作品を薦めるか、という問いそのものが難題であるうえに、イギリス人の、それもミドルクラスのおとなの女たちに、と限定すると難題度が跳ね上がります。

そんなことを考えだしたのは、ブッククラブの課題本に日本人作家を推そうかと思ったから。

そうなるとやっぱり最も知名度が高くて人気があるMurakamiでしょう。パーティで初めて会ったインテリ系男性にMurakamiを読んだか、と訊かれたことが数回あります。男同士のネタであるスポーツと車は東洋人の女相手じゃダメそうだし、音楽の趣味は皆目検討がつかない。寿司の作り方を聞くのは野暮だしってとこだったんでしょうね。

女同士だと素敵なネックレスね、とかから始まるからパーティでの話はMurakamiにはたどりつきません。勝手な思い込みでは、英語圏のムラカミ読者は男性の方が多いような。

作家もミュージシャンも同じで、30年に渡って生み出されたの中でひとつを選ぶのは非常に難しいです。最も文学的(音楽的)価値があると思う作品、好きで思い入れがある作品、その作家(アーティスト)らしさがにじみ出る作品は異なります。

そもそも村上バージン(ナボコフでも川端康成バージンでも同じことだけど)に薦める一冊というのが喧々諤々とするのは、まず一作目として選びたい本の解釈そのものが違うから。作家の真髄的作品を推したい人もいれば、個人的に気に入っている本を薦める人もいるでしょう。わたしが思うのは、長くて難解だと途中で放り出されてしまう可能性があるし、平易すぎだと、こんなものかとナメテかかられたら癪。なので、その作家らしいテーマとスタイルで、長過ぎず読みやすい作品を選びたい。

実はひと昔前までは「スプートニクの恋人」または「国境の南、太陽の西」を薦めていたんです。中編であり、シンプルな構成で読みやすく、孤独感、向こう側の世界というトレードマーク的要素が入っていて、特に前者は初期の作品によく見られる直喩が多々含まれるから。でも読み方が悪ければ、出来の悪いラブストーリーを書く作家として認識される可能性がないわけでもない。読み手側の問題ですけど。

この2作と「ノルウェイの森」のイギリス版のカバーデザインが憤怒の念がめらめらと炎上するほど悪趣味オリエンタルだったんです。東洋人女性のモノクロ写真って、どうもチープなラブストーリーにしかみえない。ジャケ買いがありだから本も第一印象って大事。現在発売されているは、ジャパン+クール=ヒップ+ミニマリストという公式にのっとり色使いもよくスタイリッシュでマルです。

「海辺のカフカ」「1Q84」「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」が出版された後では、ムラカミ度の平均値というか軸のようものがシフトしてきているので違う本かなぁ。とにかく「ノルウェイの森」は推したくない。若者、そして自殺という青春(coming of age)小説よくあるモチーフは、大人の女たちにはナメテかかられるかもしれません。おまけに古本をゲットしたらカバーデザインがダサいバージョンに行き当る可能性大。

本当は「ねじまき鳥」を読んでほしいんだけれど、ワインとおしゃべりがメインで集まるワーキングママたちにはちょっと重すぎか。

読み手の年齢と好みや趣味も考慮に入れないとハズレちゃいます。偏見のてんこ盛りで以下の通りの結論に達しました。

二十代のイギリス人男性は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」か「羊をめぐる冒険」あたり。ブッキッシュなタイプなら「ねじまき鳥クロニクル」にいきなりいってもいいかも。

二十代の女性なら「ノルウェイの森」か「海辺のカフカ」かな。

中年インテリ系はねじを捲いてもらいましょう。

詩が好きなタイプには「めくらやなぎと眠る女」。

じゃぁ、中年奥様たちには???とりあえず世界最強の15才には興味を示すはずなので、娘を実験台に「海辺のカフカ」を読んでもらっています。依然このブログで絶賛したジュリアン・バーンズの「The Sense of an Ending」は娘には不発でした。ストーリーと謎解きと教室でのやり取りは楽しんだみたいだけれど、あと20年はいるかな、歴史観の小説を堪能できるまでは。

深くも浅くもいかようにも解釈/堪能できるのが村上春樹の本の魅力の一部だから、年齢や性別にこだわりすぎるのも野暮ってもんなんでしょうね。

また、偶然を縁とか運命などとよぶことができるように、本との出会いにもなにがしかのチカラが作用していると思いたい。身体が必要な栄養素を含む食べ物を欲するみたいに、本の方がそのときの自分に合わせて引き寄せられてくるように思うのはわたしだけではないはず。

ちなみにわたしの1冊目は、「中国行きのスロウ・ボート」でした。安西水丸の涼やかなカバーデザインとそこはかとなくイメージを喚起するタイトルに惹かれたミーハー的衝動買い。

これから読み続けていくだろう若手作家を数人みつけたいですね。ひとりだと好みが変わったり作風の変遷についていけなくなちゃったりする可能性もあるので。

…..などと本のことを考えるとちいさな幸せが感じられる静かな金曜の夜。

13 コメント

  1. ああ、こういうの考えるの面白いなあ、と思いながら、
    自分が薦めるとしたらどれだろう?と考え出すと、結構難しいですね。
    と、言いながら『羊をめぐる冒険』が、ぽっと頭に浮かびます。
    ま、自分が一番好きだから、といったシンプルな理由ですが。

    年齢とか性別とか国籍とか考え出すと、ほんと選ぶの困難ですよね~。
    と、言いながら短編集だったら『パン屋再襲撃』が再び頭にぽっと浮かぶ。
    「ねじまき鳥と火曜日の女たち」が収録されているから、といったシンプルな理由。

    お嬢様の『海辺のカフカ』の感想が楽しみだなあ、
    ぼくは『海辺のカフカ』以降、読まなくなってしまった、なんだかわからないけれど。
    何気に『村上朝日堂』や、『村上ラヂオ』などのエッセイ集が好きだったりします。
    若い頃はエッセイなんてまったく興味なかったのに、不思議だなあ。

    特に予定もなく、のんびりとただ時間だけが過ぎていく、土曜の昼下がり。

    • 娘用にはカフカの次に読む本としてA Wild Sheep Chaseを買ってあります。こっちの方が先がよかったかも。流れるような生きのよさがありますよね。羊の本には。
      そうですよね、年とともに読む側の好みもかわっていってるのを感じます。書く方も変わっていっているけど。
      ところで、クマさんの美食ブログはダイエッターの敵です(苦笑)

  2. 図書館から帰ってきたところで、走りに行くか迷いながらパソコンいじっていたら、2014初投稿ですね。待ちくたびれました(笑)よくよく考えてみるとなかなか難しいですね〜。村上さんはところどころ飛んでいるのですが、なんとなく「ねじまき鳥クロニクル」でお願いします。あと、装幀のことはずっと思ってました、ひどすぎますよね?

    • 走りに行くか迷いながらパソコンをいじっていたら、コメントが入ってきました。なんだか足首が痛い気がしてきました(笑)もう2週間近く洪水のおかげで通勤ルートにある橋が閉鎖されていて、地獄のような交通渋滞の日々を送っております。ブログどころじゃないっす。車は諦め、3車線びっしり渋滞プラス高速へ抜けるロータリーを抜けてチャリでいく根性はなく、駅まで2.2キロのジョギング+電車通勤です。弁当をひっさげて走っております。かっこわりぃ。

  3. あはは、来ましたね。村上春樹。私は、彼のフィクションは好きではないから読んでいない。好きなのは、ノンフィクションだから読んでいる。「遠い太鼓」、「シドニー」、「やがて哀しき外国語」、「走ることについて…」などなど と、思い込んでいました。ところが、サニサイダーさんがどれ、に、しようかな~と上げていらっしゃるフィクション。それらも割りと読んでいてびっくり。

    彼の分厚いノンフィクション「夢を見るために…」の中で(著作についての外国人がするインタビュー集です)彼が各作品を書いたときの背景を説明するのですが、彼自身は「ダンス・ダンス」(確か、ノルウェの森のあとの次作です)が好きだと書いていました。でも、ブッククラブ用には長いですネ(上・下2巻)。

    では、これはどうでしょう
    「回転木馬のデッド・ヒート」 短篇集ですが、クールで印象に残るお話が集まっています。その中から異なる内容の話を1,2篇組み合わせて選ぶというのはどうでしょうか。

    洪水と嵐のお見舞い申し上げます。こちでは、ご想像のようにAshesに沸いていてほとんど報道されませんでした。

    • 実はですねぇ、小説家の書くエッセイの類いは一切読まないんです。
      プロフェッショナルに構築された圧倒的な虚構世界のみを堪能したいので、それ以外のよけいな説明はしてくれるな、解釈は自分でするからっていう感じでしょうか。職人技によって作り上げられた小説という嘘の世界をが好きだから、そこに現実に這い込んでほしくないとも言えます。とはいいながら「遠い太鼓」「走ることについて….」は読んじゃいましたけど。

      英訳されている短編集は「めくらやなぎと眠る女」だけみたいなんです。でも回転木馬と似ている系かな。サジェスチョンありがとうございます。短編いいかもしれませんね。

      そちらは40℃と聞いています。酷暑の折り、お体を大切に。

  4. なるほど。「作家が構築した圧倒的な虚構世界のみを堪能したい。その世界の解釈は自分でやるから、当のご本人にも説明はしてもらわなくていい」ですか。サニーサイダーさんは、虚構の世界を徹底して楽しんでいらっしゃるのですね。読みがいがありますでしょうね。その点、村上さんは思いっきり虚構を組み立ててくれますよね。

    「ねじまき鳥クロニカル」では、私ですら、井戸くらいはついていけましたが、最後に壁を突き抜けるは、「どうぞご勝手に」と、思っちゃいましたよ。「1Q84」もかなり飛んでいましたが、楽しかったです。遅ればせで、その虚構の楽しさが分かってきたのでしょうね。フィクションとノンフィクションの違いをお話したいのですが、話題から離れますので別の機会に。

    ブッククラブの推薦本は、村上さんでなくてはならないのでしょうか。吉本ばななさんなどはいかがですか。割りと短編でしょう ? 私は読んでいないのですが、イギリスのマイクが「読んでいる、面白い」と言っていました。ちなみに、彼は、村上さんの元愛読者、今はそうでもなくなって、離れちゃいましたね。

    • 最後に壁を突き抜けるは、「どうぞご勝手に」と、思っちゃいましたーーーこれには笑っちゃいました。フィクションとノンフィクションのお話、いいですね。いつかぜひぜひ。

      ブッククラブはムラカミさんの必要はありません。でもそのうちノーベル賞とっちゃうかもしれないじゃないですか。そしたら、ほーらみろ、わたしが薦めただろうとデカい顔ができます。おまけにこのムラカミ人気すごくないですか、そちらでは。なので日本人作家を読んだというので、ムラカミとバナナじゃ、前者の方が自慢できるわけですよ。

      マイクさんはオックスフォードでしたでしょうか?

  5. こんにちは。
    私も無難に「スプートニク」か「国境」をお薦めするなぁ、と読み始めに思いました。特に相手が若くないとあれば(すみません)、安全なところにしてしまいそう。あとはやっぱり「世界の終わり」でしょうか。タイトルは忘れてしまいましたが、カエル君が出てくる話もブッククラブで話すテーマとしては合っていそう。

    私の村上との出会いは、高校の卒業間近でしたが、田舎の野暮ったい女子にはあまりに衝撃的で、女子大生になるからと張り切って初めて買った CanCam の投稿コーナーの内容も合わせて、忘れられない思い出です。今でも読み終わった緑と赤のノルウェーの森と CanCam 4月号の表紙を見つめて顔の筋肉を強張らせていた自分が鮮明に記憶に残っています。それっきりでしたが、26歳で再読した時に良さがわかって夢中になりましたが、ねじまきとカフカは距離を感じました。
    彼の作品ほど読むタイミングに左右されるものはないのではないか、といつも思っているのですが、それにしては年齢層問わず絶大的な人気ですよね。私はそういうものかなぁと思ってきましたが、sunnysider さんの仰る通り年齢に左右されるのはナンセンスでもったいないかもしれませんね!また今度何かに挑戦しようかな。
    で、性別ですけど、個人的には村上好きの男性とは恋愛はできても結婚はできないなぁと(笑)

    • 女子大生とかCanCanーー遠ーーーい記憶がおぼろげに蘇りました。ぴちぴち元気で機転が利いてちょっと生意気そうなお嬢さんであるhinajiroさんを想像して、オジさんみたいににやにやしちゃいましたよ(笑)おたがい時間も距離もそこからずいぶんはなれちゃいましたねぇ。

      うーん、村上好きの方が、トーマス・ピンチョンとピーター・グリーナウェイ好きよりマシですよ。と、リキが入ってしまいます…..

  6. こんばんはー
    村上さんは私は2作品しか読んでおりません
    だいぶ前にノルウェイの森、そしてごく最近にねじまき鳥です
    知名度が高い、というと読んでいる方が多いという事でしょうか?
    賞にノミネートされたりしてるから…かな
    日本語のあのニュアンスとか、間っていうんですかね
    特に村上さんはクセのある方ですよね
    どういう風に翻訳家さんが訳すか、気になりますね
    そういえば、日本人が日本人の作品を英語に訳した本って
    結構あるんでしょうか?

    表紙や装丁などのデザインは文庫と単行本でも違いますね
    私は本棚のスペースの関係で、文庫を買ったりしてますけど
    やっぱハードカバーって、魅力的です!

  7. Sunnysider-san.

    You have a rather difficult mission here. I presume you know what these “mature” ladies might like to read but I am at loss. As for me, I am a Zatsudoku-shugi. Therefore, very easy to recommend any books to me as long as books are well written.

    I enjoy Murakami-san’s novels and essays. Novels for his incredible imaginations and cleverness. For essay, it reflect his thoughts and personality which I found very agreeable.

    When the movie version of Norwegian Wood was showing here, the 600 seating theatre was packed with college age and a little older audiences. I can tell you I am the only “beyond the mature age woman” there. I heard the theatre had to closed the entrance door while over 50 people still standing outside. Some of them were reading Murakami-san’s book while standing. He is very popular here in Seattle.

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