野外ロックフェスティバルの必需品的友

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熟れたトマト色をしたブランケットの下で身体が蠢いている。誰だかしらないけれど、動き続けるドレープの曲線から女だということはわかっている。最も丸まった部分に狙いを定め、手をかけようとしたら「oh, no」という押し殺した低い声が響いた。

目を開けると、俺はグレーゴル・ザムザみたいに虫、それも青虫になってしまったのだという悟りが降りてきたが、自分の目に張りついているのは能天気な緑で、青とどちらかまよって選んだ一人用テントの色だった。白んでいるのは太陽の光が透けているから。寝返りを打つと、頭に冷たくて硬いものが当たる。据えた匂いからビール瓶であることがわかり、ギイギイ音をたてて軋んでいる痛みが背骨と尾てい骨に走る。野外フェスのキャンプ4日目の朝だ。

寝たままフラップを少し開けると、容赦ない光と辺りを湿らせる朝露の気配が入り込んでくる。ゲーゲー吐くブロンドを「oh, no」といいながら介抱しているのは隣のテントの赤毛の女だった。焚き火とウィードとアルコールと汗と土が交ざった臭いが見渡す限りテントだらけの辺り一帯を支配している。日が暮れれば気温は急激に落ち、寒ければ火を燃やすのが人類だ。壊れたキャンピングチェアやかっぱらってきた廃材や段ボールにプラスチック、缶ビール、あらゆるものが火に投じられた。

起き上がると頭が痛くて、空腹なのだというシグナルが脳に届く。生命感のようなものに圧倒されて泣きたくなった。そんなことを感じるのは、昨夜の大音響とレーザービームと大観衆の一部となって押し押され続ける人の波のパワーのせいだという冷めた自分も覚醒したらしい。

Was sort of hoping that you’d stay–that the nights were mainly made for saying things that you can’t say tomorrow dayー昨夜のパファーマンスの歌詞を俺の頭が再生する。

「おお、やっと起きたか、さあ、行くぞ」という声ともに覗かせたあいつの顔が妙に懐かしかった。数時間前まで一緒にいて、各々のテントにもぐりこんだだけだというのに。

日曜の朝の光は健全で、テムズには白鳥たちが暢気そうに浮かんでいて、煉瓦の住宅たちが秩序正しく並んでいる。立ちっぱなし押されっぱなしで痛む腰に坂道はこたえる。時折犬の散歩をする人にすれ違う以外は誰も歩いていない住宅街の静けさが、俺たちをこちら側の世界へ引き戻す。こっちとはどっちだ。あっちとは違う場所だ。垣根が綺麗に刈られて玄関先に植木鉢が並ぶドアに彼は鍵を差し込む。ドアが開くとそこで俺たちを迎えいれたのは、家の中特有の暖かさとベーコンが焼ける匂いだった。

(以上は架空の記述)

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とうことで、うちは野外ロックフェスティバル会場から徒歩圏内であるため、温かい朝ご飯が食べられシャワーが使える息子の友だち用無料休憩所となり、がたがたしてちょっとお疲れウィークエンド。駅から歩いていけるこんなところで何万人も来場する都市型野外フェスをしなくても、と思うけれど毎年フェスティバルに行く人々で占拠される。そこにほどちかい便利なロケーションに住んでいる息子は、実に重宝な友のはず。ま、男の子たちがご飯を食べる様子というのはなんだか元気がでる光景であります。朝方までずっとがやがややっている野外フェスキャンプ生活を続ける彼らは日を追うごとに疲労を蓄積させていく様子がありあり。日曜の朝はパンケーキとベーコンを用意してみました。

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モノクロ写真好きによる「こだわってるこれについてひとこと言いたい」ブログ。犬が歩けば棒に当たる的に社会・本・映画・フードなど。使用写真は自前です。

4 コメント

  1. お待ちしてました。しかしまれに見る長ーいブランクお元気でしたか?!来日もされてたはずですね(笑)ひさしぶりにSunnysider節にふれて、にんまりしています。いいなあ、僕も息子さんのお友達としてパンケーキ10段重ねを貪りたいです。

  2. 野外ロックフェスの朝食に、Arctic Monkeysを口ずさみながら、
    こんなに美味しそうなパンケーキとベーコンを食べられるなんて最高だなあ。
    メープルシロップたっぷりかけて食べたいです。
    2年前に行ったフジロック以来、野外フェスは行ってないや、体力の限界だあ。
    野外フェス以前に夏の暑さでヘロヘロ、そしてようやく日本も秋らしい気配です。

  3. 日本にいったらNorth Lake Booksの送料無料キャンペーンを利用して実家にいっぱい届けてもらおうという目論みは、ごちゃごちゃした用事と2回も来た台風のおかげでふっとびました。とても残念です。カフェの開店は来月ですか?

    botapotaさんでしたら、夜明けまでアルコールとドラッグでうるさい若者たちに囲まれることのないVIP特設テントを庭に設営いたします!

  4. さすがミュージックシーンに造詣が深い森のくまさんの速効コメントありがとうございます。
    わたしが一番好きなMardy Bumは今回は演奏しなかったそうです。古いしテンポが遅いからかな。連休最後の今日は、テントがまだ玄関に放置されたまま、家の中はフェス疲れの空気でいっぱいです。(わたしは朝ご飯づくりとキャンプしてない娘の深夜のお迎えで)

    野外フェスは体力と気力が要りますよね。とくに日本の夏はそれ以前の問題です。暑くて虫なんかいっぱいいそうですよね。知り合いが長年フェスティバルのボランティアをやっていますが、後に残されたゴミが壮絶らしいです。

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