根っから本好きにおすすめしたいマイノリティ作家 – ジュンパ・ラヒリ

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久しぶりにツボにはまる本に出逢い、人に押しつけてでも勧めているジュンパ・ラヒリの短編集について。

短編集にはまっている、といえるほど実は最近本を読んでないのです。時間との折り合いがうまくつけられない生活を送っていると、どうも注意力が散漫になります。ページを繰ることすら必要としない映画もオンラインで観ることが多く、途中でこの俳優みたことあるけどなんの映画に出てたのだっけとか、この監督の前の作品は、とかちょこちょこスマホをいじってしまうんですね。

ラップトップとスマホをベッドから程遠いところへ置き、ベッドサイドテーブルの電気スタンドを点け、淹れたばかりのハーブティを置き、枕を叩いてベッドにも入り、羽毛ぶとんとクッションがわりの枕の間にぬくぬくとすっぽりはまりこみ、よもやそこから抜け出てスマホをゲットすることがないような状況にして紙でできた本を開く。それでも集中できるのが短編どまり。かなしい。

そういう生活の中、ツボにはまる本に出会ったのでシェアしたいと思います。

ジュンパ・ラヒリの紹介はここで新たに場所を作らなくてもググればでてくるので、Wikipediaにお任せするとして(こちらです)。身も蓋もなくラベル化するとインド系アメリカ人の女流作家。

Classyな短編であること

「新進気鋭の」という言葉はよくききます。そういう修飾語がついた作品はどこか人と違うことをヤンなくちゃいけないという、がんばり感とそれに押し出された未熟さが逆に目立って読んでいて疲れちゃって、読み続けることが苦痛になる場合がおおいと感じてしまいます。本当にdifferentな話にはただただ読まされてしまい、最後にうわーっこれは新しい読書体験だったわと、ポンと膝を打ちうれしい気になる。帽子をほんとに脱ぐ。残念ながらそういう経験は非常に稀。まぁ確かにそんな才能がそのへんにごろごろしてるわけはありませんね。

その反面、凡庸でどこにもひっかからず時間と金の無駄であったと悲しくなる話もくさるほどあります。書いている人の苦労は書かない人にはわかんないといわれればそれまでですが。

さらりさらり。そう畳み掛けられなんてことない話のようで人間の機微をすぅーっと掬い取り、何気なく終わる。ザラリとしたわずかな引っかかり感を残して。その後味がロングフィニッシュのお酒みたいにフルーティやらスモーキーだったりビターだったりする。これって短編に求めらる要素の究極ではないでしょうか。そういう意味では「新しく」はない。でもそんな職人的仕事をする作家は多くはない。特に新しいといわれるジェネレーションでは。

ベンガル系であること

ベンガル人という言葉には馴染みが薄いです。インドとかバングラデシュという国境での線引きに慣れているため、ベンガル湾に居住する人々に特異な民族的な括り方は異邦人であることをよりくっきりと、でもふんわりと強調する。食べ物であったり姿形であったり衣服であったり、ちょっとしたディーテイルがナショナリティを超えたアイデンティティの輪郭を描いているのです。

マイノリティ文学であること

故郷を離れて異国に住む人々のもつ疎外感。移民1世と2世のジェネレーション格差。そういうものをモチーフにする作品は欧米には数限りなくあります。またクロスボーダー化が進む中、マイノリティとマジョリティの境目は不明確化し続けています。

人はみなある種のズレを内包しています。こう在りたい自分といまの自分。人がみている自分と自分がこうだと思う自分。他人と自分の違い。未来の自分と過去の自分。そうはっきりはしないモヤモヤの中に生き、漠然とぼんやりと「どこか違う」「なんやらズレている」そんな曖昧模糊とした霧が自分を取り巻いているのです。

だから民族的差異に起因する輪郭のはっきりした疎外感を職人的に描出されると、気が付かないうちに心が寄り添ってしまう。自分とは全然違う文化背景をもつフィクションであるのは逆に便利がよい。自分のあいまいなズレ感を異なるディメンションのズレ感に共鳴させる。自分の中のもやもやは意識することなく放っておきながら。だからインドとかカリブ系だの全く未知な話への郷愁がえらく魅力を帯びてきます。

……..なんてことを感じる作品群です。

まず1作目を読んでみたい方には”Interpreter of Maladies “(日本語版「停電の夜に」)をお勧めします。短編集の魅力をたっぷりもったストーリー性の高い読みやすい話が中心。始めにパンチが効いたものをもってきて表題作を中程に持ってくるのは、音楽のアルバム構成と同じね、と思います。日本語版は読んだことがないのだけれど、Memoir of a Geisha「さゆり」の訳に敬意を表した小川高義さんが訳者なのでさらりと味わい深く読みやすいことは間違いありません。

原作の英語版も非常に読みやすいです。凝った文章ではないし限られたシンプルなボキャブラリーなので、リキを入れなくてもすっと入っていけるので中・上級の人には苦労なく最後まで行き着いて自信がつきそうな本。

次の短編は「見知らぬ場所」。「停電の夜に」のような目から鱗感はないけれど、もっと静かなところに連れて行かれて、小説のバイブが静かに広がっていく感じがします。

短編だけの人、ではないんです。ファミリーサガ系の長編で小説世界の幅を広げ、さらにエッセイも出版。ちなみに個人的には小説書きのエッセイは読まない主義ですが。

もともとジュンパ・ラヒリは森のくまさんにご紹介いただいた本。
ネットを通してこうやって情報をシェアできるのは幸せな時代だと、ほんと思います。

14 コメント

  1. 日常のように淡々と時が過ぎ、日常のように終わりが曖昧なまま過去となる。そうやって心のどこかに小さなトゲが残される。良い作品ですね。唯々、作家の描く風景が自分の想うものと違うような気がして口惜しい。

    • —“日常のように淡々と時が過ぎ、日常のように終わりが曖昧なまま過去となる。そうやって心のどこかに小さなトゲが残される。”–

      本当にそうです!
      これは「違い」がテーマですからそういうズレがあるほうがなんだか正しいような気もします。。。

  2. そうなんですよね~、ついついスマホいじっちゃうんですよね、なんでだろう?
    それはさておき、ジュンパ・ラヒリを気に入って貰えてよかったです。
    作品の並びが音楽のアルバム構成と同じって、言われてみて初めて気づきました、まさにそうですね!
    アルバムのラストを飾る「The Third and Final Continent(三度目で最後の大陸)」も見事だったものなあ。

    そうそう、ジュンパ・ラヒリの日本語版は小川さんの翻訳なので、安心して物語の世界に入りこめます。

    • こんにちは。
      はじめてコメントさせていただきます。
      息子が学校の英語の授業で読んだ
      The Namesake が本棚にあったので、ちょうど読み始めたところでした。予備知識なく手に取りましたが、背景がわかると興味深いですね。ありがとうございました。
      短編も読んでみたくなります。

      • 松の石さん

        コメントありがとうございます。ブログ書きは深い井戸に向かって独り言をつぶやいているような気がしますが、こうやってフィードバックをいただくと誰かとコネクトしているのね、とうれしくなります。

        息子さんが学校で?どちらにお住まいですか?それとも息子さんは英文学または異文化コミニュケーションを学んでいらっしゃるのでしょうか?どちらにしろ息子さんと本をシェアできるなんてすごく素敵な関係ですね。The Namesakeは短い本ではありませんが、シンプルな文体なので読み進めやすいですよね。ぜひ感想をお聞かせください。

    • くまさん

      始めでガツンときて、するすると読み進め、表題作(原作の)でうーんとうならせ、最後の話で上手くしめ、しっかり余韻を残すーー上手い構成ですよね。

      お勧めいただいたジュンパ・ラヒリと木内昇はびっしーーーっとツボにはまりました。こうやって良いものは回していきたいと思います。他に何かありませんかーー??

  3. いつ読めるかわからないけれど書き留めました。紹介してくださってありがとうございます。
    子供の頃バングラデシュに住んでいたこともあり、ベンガル湾にも訪れたことがあるんです。なので、どんな世界をどんな風に描写されているのか、とても興味深いです。日本語訳が出ていることにビックリしました!短編でマイノリティでも人気があるのですね♪

    • コメントいただいているのすっかり見逃していました。なんででしょう。
      バングラデシュ在住歴がありカナダ在住。温かいハートは多様な経験からきているのですね。かっこいい。いま友達がダッカで働いていますが、住んで仕事をやっていくのは大変そうです。うん10年前カルカッタでバングラデシュのビザを取得しましたが(えらい疲れる作業でした、人ごみにもみくちゃにされて)洪水とバクシーシのデモで行くのあきらめました。さて、Interpreter of Maladiesはピューリッツァー賞受賞しているので、マイノリティの話ではありますが、マイナーでは全然ないんです。子供時代への懐古と郷愁が混ざり合った面白い読書体験になるのではないでしょうか。。。

      • ダッカで働いてられるお友達、生活や仕事は今でも大変なのですね。両親も当時「ものがない」と苦労したみたいですが、子供の私達にとってはワイルドな環境が楽しくて仕方なかったです。日本に帰国してから日本の硬い社会になじめなくて、両親に心配かけましたよー。いつか、バングラデシュを訪れてみたいです。
        Interpreter of Maladies、リストにいれてあるんです!クリスマス休みに読めるかなー。楽しみです。

  4. 「その名にちなんで」は映画化もされましたね。。心のあや、みたいなもの上手に表現されていて、好きな作家です。停電の夜に、の最後の短編「三度めで最後の大陸」はなんとなく私の両親の新婚時代ぽくて(両親は帰国しましたが)個人的に親近感を持ちやすい作家です。マイノリティ文学ではジュノ・ディアスの「オスカーワオの短く凄まじい人生」もオススメです。アメリカ在住のドミニカ移民の、日本アニメオタクの非モテ青年のズレまくり人生物語です。何この変な話、と思いながら読後はオスカーのことばかり考えてしまいました。原書で読んだらもっと疾走感あるんだろうな、と思っててsunnysiderさんだったらどんな感想もたれるんでしょうか。マイノリティ文学ではないかも知れないけど、ノーベル文学賞受賞したトルコの作家、オルハン・パムクの「雪」「私の名は紅」も別世界にトリップできて素敵です。最近は長い小説を読む根気がなくなってきて、列挙した本を読んだのも大分前のことになります。マキューアンの「華麗なる作戦」やっとのこと読み終わって、ちょっと期待外れで、いまは「キム・フィルビー」をひいひいいいながら読んでます。。

    • oimoさんちもインターナショナルなんですね。オススメ本ありがとうございます!うれしい。明日から日本なので飛行機の中でじっくり読めそう。空港の本屋にあるといいのですが。。別世界にトリップーーー読書の魅力はこれですよねー。トルコは大好きな国なのでぜひ読んでみたいです。マキューアンは「甘美なる作戦」でしょうか?Sweet Toothをどう訳すんだろう〜と思っていたのですが、がんばり感のあるタイトルですね。期待外れはちょっとわかります。セリーナのキャラクタライゼーションがいかにも男が書いたという感じで深みが欠ける感じがしました。またスパイ小説を期待しちゃうとまた違うし。スパイ系でキム・フィルビーときたら次はジョン・ル・カレかな?
      他にもおすすめありましたらぜひぜひ!

  5. 時間がかかってしまいましたが、Tha Namesake を読み終えました。数日経っても本の世界からなかなか抜け出せないほど、入り込んでしまいました。
    マイノリティの生きづらさを描きながら、家族という普遍的なテーマが大きくあって、自分と重ね合わせて読み進めることができました。
    私達は家族でアメリカにしばらく住み、帰国して息子は日本の大学に行っています。

  6. The Namesake、 時間がかかりましたが読み終えました。しばらくは、その世界からなかなか抜け出せないほど入り込んでしまいました。マイノリティとしての生きづらさを描きながらも、家族というテーマは普遍的ですね。私の中では、数年に一冊出会えるかどうかの本になりました。
    息子はアメリカで中学高校を過ごし、今は日本の大学生です。難しい年頃に沢山苦労しましたが、良い経験だったと思えるようになったようです。
    また素敵な本を教えてください。楽しみにしています。

    • 松の石さん

      ダブルにコメントをいただいてありがとうございます。コメントの認証がうまくいっていなかったみたいです。すみません。
      実際に「異国に我が家がある」という環境に身を置いて、内側と外側の両方をみるのは
      確かに視野は広がりますが、痛みを伴います。家族とアメリカで生活されていたのであれば、読みがさらに深くなるでしょうね。自分が新しい文化に溶け込んでいくことだけでも大変なのに、子供のサポートもするのは本当にご苦労でしたでしょう。息子さんはアメリカ生活で培ったものを大きく伸ばしていかれますね。楽しみですね。

      こちらこそお薦めの本がありましたらよろしくお願いしますね!

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